東京農業大学

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教員コラム

森の恵み“きのこ”を知ろう

2014年11月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(7)

“きのこ”を原材料とした新たな創薬・創食に期待する

 きのこは、枯れた木や落ち葉、動物のフンや死骸を分解して森をきれいにする“そうじ屋”としての役割を持っています。また、大きな木のかげで太陽の光がよく当たらない低い木に、大きな木でつくられた養分をきのこの菌糸を通じて運んでいることが明らかになっています。すなわち、森はきのこによって育つといってもよいでしょう。
 きのこの種類は日本だけで約4,000〜5,000種類はあるといわれていますが、そのうち約2,000種類にしか名前がついていません。実は、きのこはまだまだわからないことが多い生き物なのです。
 きのこの一生は子実体(可食部)のかさの裏についている胞子から始まります。胞子は風などによって飛ばされ、水分と栄養のある場所に落ち、最適な温度になると芽を出し、菌糸を伸ばしていきます。しかし、多くのきのこはこの菌糸が成長しただけでは子実体はつくりません。実は胞子には性別があり、違った性の菌糸がいっしょにならないと、きのこは生えてこないのです。植物でいえば、おしべについている花粉がめしべといっしょにならないと、種が実らないのと同じです。違った性の菌糸が接合したものを二核菌系といいます。この二核菌糸が増えていき条件が整うと子実体が生えてくるのです。
 きのこは腐生性きのこと寄生性きのこに大別されます。腐生性きのこはたい肥や落ち葉、枯れ木などに生えて養分を吸収します。枯れ木につくものは木を分解してボロボロに腐らせるので木材腐朽菌とよばれ、分解された木は土にかえり、他の植物の栄養になります。この種のきのことしては、シイタケ、スギヒラタケなどがあります。
 寄生性きのこは植物や昆虫に寄生して、その栄養分で成長します。多くのきのこの種類は寄生した相手に害を与えず共生関係をとり、植物の根に寄生した場合、寄生した植物に水分などを与えたり、病気から守ったりしながら共に成長していきます。こうしたきのこは菌根菌といいマツタケ、ホンシメジなどがその代表です。しかしながら、寄生性きのこの中でも冬虫夏草と呼ばれるきのこの仲間は、虫に寄生しその命を奪います。
 森の中ではたくさんのきのこたちが皆さんとの出会いを待っています。おいしいきのこ、毒を持つきのこ、光るきのこ、虫に寄生するきのこなどいろいろな生体をしています。
 森に入りおいしいきのこを食卓へと運び、これからの季節、鍋料理、焼き物、揚げ物としてきのこの旨みを感じてください。皆さんが見つけたきのこの中から私たちの生活に役立つ新規医薬品や加工食品の原材料としての発見があるかもしれません。

写真1 枯れたアカマツに発生した“スギヒラタケ”(毒)
写真2 筆者が最も好きなきのこ“タマゴタケ”(食)
写真3 発光きのこ“ヤコウタケ”
写真4 冬虫夏草(クロコガネムシ)
写真5 マツタケの採取を喜ぶ筆者

 

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