東京農業大学

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教員コラム

ヒメマツタケ乾燥子実体および抽出物顆粒

2014年10月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(6)

期待される各種疾患への予防・改善効果

 ヒメマツタケは、ブラジルサンパウロ郊外の山地および北米(フロリダから南カロライナ州の海岸草地)の一部で発見されているきのこです。ブラジルでは、1950年代後半より食経験があり機能性きのことしての人気から乱獲され、近年野生種を見ることはほとんどできません。人工栽培法の確立とその技術開発が検討され、1965年に日系ブラジル移民の古本隆寿氏が岩出玄之助博士の元に持ち込んだことで日本における研究が開始されました。岩出博士は、発生地の立地条件、土質、養分、気象関係を調査し、1973年に人工栽培を普及しました。1980年代半ばよりヒメマツタケの機能性研究が本格的に開始されましたが、乾燥きのことしての活用法が一般的で生食としての流通はほとんどありません。ヒメマツタケは、健康志向の食品原料として国内産、ブラジル産、中国産が多く販売されています。1995年前後を境に大手から中小の企業までが市場に参入し、あらゆる形態の“いわゆる健康食品”が販売されるようになりました。ヒメマツタケの子実体および菌糸体を利用した商品は、ネットや通信による販売だけでも全盛期には300種以上できのこ由来の“いわゆる健康食品”としては最多数の製品がありました。健康食品関連市場規模は、2003年をピークに350〜400トン、380〜400億円程度と推定されましたが、2006年2月、一部のメーカー製品の自主回収報道などを引き金にその規模は大きく落ち込みました。厚生労働省は、一部製品の自主回収はあったものの、ヒメマツタケそのものに問題があるのではないと風評被害防止を呼びかけています。
 東京農業大学におけるヒメマツタケの研究は、1990年に株式会社日本バイオの吉本克己社長が林産化学研究室にブラジル原産のヒメマツタケ(CJ─01株)を持ち込み研究が開始されています。当時大学院生であった筆者も檜垣宮都先生の指導下で研究に従事しました。ヒメマツタケの子実体や菌糸体からの成分は、熱水、アルコール、酵素処理などいろいろな抽出法・加工法で調製しましたが、機能性物質の本体となる特定物質は規格化されているものではありません。機能性成分としては、糖タンパク複合体、(1,3)(1,6)─β─D─グルカン、プルラン、フコース、ガラクトースなどの物質などが複合的に定量されています。ヒメマツタケCJ─01株でのin vitroとin vivoおよび臨床による症例研究結果があります。気管支炎患者における細胞内サイトカイン濃度に対する影響として抽出物の摂取でIFN─γ産生増強により気管支炎症状を改善することが確認されました。記憶障害に対する治療効果として8方向放射状迷路課題により、ヒメマツタケ摂取群のマウスでは脳虚血による空間認知記憶障害が抑制されました。その結果は当帰芍薬散、黄連解毒湯および釣藤散といった漢方方剤と同等かそれ以上の改善が見られました。さらに自然発症糖尿病ラットにおける膵β細胞数減少に対する改善作用として膵β細胞機能を回復させインスリン産生を増加させインスリン分泌機能の亢進でのII型糖尿病に対する効果、本態性高血圧症の被験者が摂取したことによる血圧降下作用なども確認しています。ヒメマツタケCJ─01株は、乾燥きのこや抽出物の顆粒加工品として開発・販売されています。ヒメマツタケCJ─01株を用いた東京農業大学での研究は、国内共同研究に留まらず中国との国際共同研究も実施されています。さらに今年よりタイの大学との共同研究も始まりました。きのこを研究材料とした学際的な国際交流も実施されています。

写真1 ヒメマツタケ子実体(CJ-01)

 

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