東京農業大学

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教員コラム

クロスタニン一生健康

2014年7月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(4)

陽と陰との融合による機能性食品の創製

 前号においてカワラタケを主原料としたクロスタニン健康100歳の開発経緯などについて紹介しました。その製品を共同開発した株式会社日健総本社と東京農業大学との製品開発は一品にとどまらず天然物複合食品(微細藻類多糖体・精製オイルおよび担子菌類多糖体複合食品)である“クロスタニン一生健康”も創製させています。
 株式会社日健総本社は微細藻類の専門メーカーであり、多くの微細藻類の分離と大量培養に成功しています。微細藻類と言ってもピンとこない方もおられるかと思います。藻類は、光合成によって酸素を発生する葉緑体を持つ生物です。藻類には、昆布やワカメなどの大型のものと単細胞で顕微鏡下でないと見ることのできない微細なものとに分けられます。微細藻類は、35億年前地球の海洋に出現した最初の生物のひとつで、多くの生物が進化する中にあっても進化や絶滅することなく生命を維持してきた強健な生命体です。すなわち微細藻類は、太陽・水・空気があれば過酷な環境でも光合成によって生存し得るのです。クロスタニン一生健康の原材料は、塩分濃度が30%以上の死海から発見されたドナリエラ(フィトエン抽出物)、極寒の北極圏から発見されたコッコミクサ(原粉末や抽出物)やオーランチオキトリウム(精製オイル)という微細藻類からの分離したものとマンネンタケやカワラタケのきのこから抽出したものを混合した製品です。藻類は、光合成する生物であるため「陽」、きのこは光合成ができない生物であるため「陰」に区別されます。食生活の中で「陽と陰」の天然物を食することは東洋医学の教えでは重要な要素を持つと指摘されています。確かに、科学的な試験研究において微細藻類のみ、きのこのみの場合よりも複合の物質の方が相乗・相加的に良好な結果が得られることもわかっています。
 クロスタニン一生健康の製品開発を実施するにあたり、原材料の評価、処方評価、栄養成分評価および機能性評価(培養細胞試験・動物試験・ヒト飲用試験・飲用に基づく各種疾患への作用メカニズムの解明)を実施しました。クロスタニン一生健康は、血小板凝集抑制、炎症抑制(ケモカイン遺伝子発現抑制試験)、脂質異常・肥満症改善(リパーゼ阻害活性試験)、高血圧症改善(ACE阻害活性試験)などの評価系とヒト試験による解析から良好な結果を得ました。一般的に西洋医学の研究分野においては、疾患の治療で薬剤投与する場合、その活性本体と作用メカニズムが特定されていることが原則です。しかしながら、天然物を用いる生薬や漢方療法は、複合的な物質の作用が疾患改善に功を奏する場合があることも知られています。すなわち天然物を用いた機能性食品などの実用化には、“クロスタニン一生健康”で実施したような科学的根拠に基づく評価を基礎と応用研究によって実施することが大切です。
 森林などの自然環境から採集される資源からは、私たちの「生活の質」の向上に貢献する物質が単離されるとともに、原形で利用可能なものもあるでしょう。私たち森林資源利用学分野で研究を実施する研究者は幅広い観点から天然物を科学的に評価し、創薬や創食の資源を見出すことに努力したいと考えます。

 

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