東京農業大学

メニュー

教員コラム

ヤマブシタケ入り味噌

2014年4月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(1)

機能性が高く、旨味も十分

 ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)は近年、認知症の改善に作用するヘリセノンやエリナシンなどの神経成長因子合成誘導促進物質を含有することが見いだされ、注目を集めているきのこです。
 さらに、抗糖尿病効果や血小板凝集抑制効果、免疫賦活成分によるNK細胞の増多や抗腫瘍効果なども報告されており、高齢社会に伴う認知症などの加齢性疾患や生活習慣病などの予防と治療に役立つ食品素材としてその利用価値が高まっています。
しかしヤマブシタケは高い機能性を有するものの、有効量のヤマブシタケを調理品から日常的に摂取し続けることは難しいものと考えます。また、機能性食品として錠剤等を摂取し続けるとしても安価ではありません。そこで本開発製品は、日本人の日常の食生活に多く利用される「味噌」にヤマブシタケの特徴ある成分を添加することを目的として、1日2〜3杯の味噌汁を食していただければ有効的な量になるような加工を行いました。
すなわちヤマブシタケ(子実体=スーパーなどで売られている可食部)を味噌原材料とともに発酵熟成し、ヤマブシタケの有効成分が溶け込んだ味噌を製造したのです。
 麹歩合が高いため短期間で熟成が可能な麦味噌を仕込み、ヤマブシタケと味噌を共に発酵させることで得られる成分変化や機能性を検証しました。
成分分析はホルモール窒素やアミノ酸組成など窒素成分を中心に行い、旨味の強さにおける官能評価試験も行いました。機能性分析では日本において癌と並び三大死因と言われている心疾患、脳血管疾患の危険因子となる血小板凝集に対する効果に着目して検討しました。
 麦味噌にヤマブシタケを添加して共に発酵熟成させた結果、味噌自体にヤマブシタケ同様の血小板凝集抑制効果が付与され、またグルタミン酸が増加することで味噌の旨味が著しく増進されていました。
 これはヤマブシタケを味噌製造原材料と共に熟成させることで熟成中にヤマブシタケから効果的にグルタミン酸や血小板凝集抑制に作用する有効成分がにじみ出て、従来の麦味噌由来のグルタミン酸に加え、ヤマブシタケ由来のグルタミン酸も豊富に含んだ旨味と機能性の高い味噌になったためと考えています。
 この味噌の名前は、駄洒落的な要素も込めて私の名前が"えぐちふみお"であることから『江口文味噌』としました。現在、大手百貨店の髙島屋の催事において取引が行われているほか、常時販売していただいている店舗として株式会社メルカード東京農大、高崎髙島屋味百選のコーナーなどがあります。
 この味噌は、味噌の仕込み段階よりヤマブシタケを添加することによりアミノ酸などの旨味をアップさせるとともに健康増進などへの効果も実験的に検証した製品です。また、原材料の全てについて研究室で厳選した国内生産物を用いて宮崎県霧島の加工グループに製造を委託している産学民による連携成果物なのです。なお、多くの消費者のご意見なども反映し最終段階で酒精を加えて発酵を停止することなどは一切していない無添加の味噌です。味噌などの発酵食品は健康増進に興味をお持ちの方ばかりでなく日本人の食文化にも深く関与するものであり、今後の普及に期待が寄せられています。


 

ページの先頭へ

受験生の方