東京農業大学

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教員コラム

魚醤油の開発

2014年1月20日

生物産業学部食品香粧学科 教授 永島 俊夫

オホーツク新食品誕生記(21)

地域資源の高付加価値化(1) 網走産サケ・マスの有効活用

北海道は一次産業が盛んで高品質な農畜産物が豊富である半面、未利用部分や規格外品などがきわめて多いのが現状です。オホーツク海の代表的な資源としてサケ、マスがありますが、これらの多くは内臓を除くか三枚に卸した状態で冷凍にして出荷されます。その際に出る内臓や頭、尾などは飼料とするか廃棄されているほか、身の部分も産卵期を迎えたサケは「ブナサケ」といい婚姻色が現れ、その程度により脂肪やタンパク質含量が減少して品質がかなり低下するため、これらの有効利用についての検討を行いました。
内臓や肉の部分を構成している主成分はタンパク質なので、これを分解すればアミノ酸やペプチドなどの呈味成分が得られます。魚醤油はこの原理によって作られますが、東南アジアの「ナンプラー」(タイ)、「ニョクマム」(ベトナム)などやわが国でも古くから「しょっつる」(秋田県)や「いしる」(石川県)、「いかなご醤油」(香川県)などがあり、よく知られています。魚醤油は種類により特有の味があります。これは、原料となる魚のタンパク質組成が違い、分解して生成するアミノ酸の構成比率が異なるためにそれぞれの味が形成されるからです。
そこで、この地域のサケやマスを原料とした魚醤油の製造について検討しました。東南アジアでは気温が高いため、魚に塩を加えて自然の状態においておけば分解が進みますが、網走ではサケ、マスの漁獲期が秋のため、寒さが加わっていき、自然の状態では十分に分解することができません。そこで保温をする必要があることと、分解を早めるためにタンパク質分解酵素を少し加えることにより2カ月ほどで完成するような条件を確立しました。これを網走第一水産加工業協同組合が製品化し、サケから作った「鮭太郎」、マスから作った「鱒次郎」という名前で販売されています。それぞれ味にまるみと深みを付与するため米麹を加えた「濃口」、加えず色を淡く仕上げた「薄口」の2種類があります。
魚醤油は一般にはあまりなじみがありませんが、いろいろな料理のかくし味として業務用ではかなり使われているようです。原料魚の種類により味の異なるものができることや、資源の有効利用ということにもつながり、最近各地で作られるようになってきました。北海道においても同様で、道内20社以上の企業で「北海道魚醤油生産組合」を組織して、サケやホタテ、ホッケなどいろいろな魚貝を原料とした魚醤油が販売されています。
タンパク質を分解するということは畜肉からも作ることができ、私も開発に関わった美幌町の豚醤油「まるまんま」は高評価を得ています。さらにエゾシカやエミュー肉、鶏肉を用いた肉醤油の検討も行っています。これらは大豆や小麦を原料とする通常の醤油とは異なり、原料の種類が豊富なだけに用途によって使いわけたり、その特徴を楽しんだりすることもでき、調理の幅が広がります。そのようなことから、今後さらにいろいろな醤油系の調味料が開発されていくものと思われます。


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