東京農業大学

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教員コラム

キクイモ製品

2013年11月22日

生物産業学部食品香粧学科 教授 永島 俊夫

オホーツク新食品誕生記(20)

新規地域資源の利用(3) 機能性を生かした製品開発

道東、釧路の近くの音別町というところで農業をされている伊藤今朝儀氏(故人となってしまいました)と出会いました。伊藤氏は、キクイモの健康機能性に注目し、これを栽培して広く活用できないかということを考えていて、私に加工利用についての相談がありました。釧路には地ビール会社もあったため、まず発泡酒に利用するための研究を行い試験醸造した結果、ある程度キクイモの成分を有する発泡酒ができることがわかりました。また、釧路のフレンチレストラン、"フードハーツ"でもキクイモに注目してメニューに積極的に取り入れており、それぞれが連携してキクイモの食品への用途開発、成分分析、販売促進などを検討しようということになりました。
キクイモはキク科の植物で、秋には黄色い花が咲きます。地下の部分を利用することから「イモ」と言われますが、利用する部分は塊茎です。イモのようにデンプンは含まず、イヌリンという多糖類を含み、ポリフェノールや食物繊維なども豊富で、血糖値上昇抑制効果、脂質代謝改善効果、整腸作用など、多くの機能性があることがわかっています。そのようなことからキクイモを毎日薬のように摂取している人もいますが、私はサプリメントのようなものではなく、機能性を生かした食品への利用について検討しました。パンやクッキー、ようかんなど、いろいろなものを試作しましたが、いずれもイヌリンを含有したおいしいものができました。そしてこれらの試作品を参考として、釧路の"フードハーツ"ではパウンドケーキを製品化し、伊藤氏と私も含めた3者の紹介文が書かれたリーフレットを入れて販売されました。
キクイモの試験を行っているうちに、イヌリン含量は変化しやすく、収穫後の保存状態が大きく影響することや、加工処理中に色の変化が早いことなどがわかってきて、取り扱いについての検討が必要でした。このような変化は酵素によるものと思われ、酵素を失活させる熱処理をしてから冷凍あるいは乾燥するなどの保存法が有効であることが明らかになりました。また、キクイモは食物繊維が豊富なことから、高い保水性や保油性などを有していることもわかりました。このような性質は食品製造における品質や物性の改良などにも効果のあることが考えられ、新たな食品素材としての利用なども期待されます。
十勝の北海道農業研究センター芽室研究拠点では全国から集めたキクイモ遺伝資源128系統を保有しており、生育状態や収量、イヌリン含量などのデータを蓄積しています。キクイモについてはこれまで興味のある人たちがそれぞれ独自に扱ってきましたが、このような生産から加工、機能性の研究、販路拡大など、北海道ではキクイモに関わっている大学や研究機関をはじめ興味をもっている企業が多いことがわかり、今年の6月「北海道キクイモ研究会」が組織されました。情報交換の場を通して今後、キクイモ研究がさらに効率よく進み、いろいろな成果が得られるものと期待されます。


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