東京農業大学

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教員コラム

心の燃料から車の燃料までアルコールを食品に変える

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

このシリーズ3回目は、アルコールが食品に変わる話です。

その代表は、今ブームのお酢ということになるでしょう。お酢は、人間が造りだした最古の調味料で、今から3000年ほど前の旧約聖書にも記録があるとのこと。日本には応神天皇の頃(西暦400年頃)、中国より酒の製造法と前後して伝えられたといわれています。お酢ができるまでを簡単にいえば、まず糖分を酵母がアルコール(酒)に変える、このアルコールを細菌がお酢に変える、ということになります。化学的には、酢酸菌がアルコール(C2H5OH)に酸素(O2)を与える反応(酸化反応)を行なうことにより酢酸(CH3COOH)と水(H2O)が生成されます。これを酢酸発酵といい、通常この発酵で生じた酢酸を4〜5%含む発酵液がお酢(食酢)ということになります。ですから、酒(アルコール)があればお酢ができる理屈で、その種類は約4、000種もあるとか。ワインからはワインビネガー、バルサミコ、ビールからはモルトビネガー、日本酒からは米酢、シェリー酒からはシェリービネガー等々、元はお酒、当然その成分も酒同様、大変複雑です。

ちなみに、お酢(ビネガー)の語源はフランス語のVinaigre(ヴィネーグル)、Vin(ワイン)とaigre(酸っぱい)の合成語です。つまりワインが酸敗して酸っぱくなった状態を意味しています。まさに的を得た言葉ではありませんか。このお酢、健康にもよく、殺菌作用も強く、料理には欠かせない存在、まさに、お酢なくしては、その国の食文化は語れません。その原料のアルコールに感謝、酢酸菌に感謝、そして先人の知恵と発想、たゆまぬ努力に脱帽。 次に、筆者もアルコール研究者の証として、アルコールから新甘味料を造る話を一つ。日本酒には、ブドウ糖とアルコールの結合した糖(α―エチルグルコシド:α―EG)が微量含まれています。この物質、ほろ苦い甘味をもち、化学合成法により、実験試薬用として1g、1、5000円程で市販されています。この価格では、利用研究は不可能。そこで、経産省アルコール専売事業特別会計による研究開発委託により、産学協同で、このα―EGの工業生産技術開発を試みた。丸3年間、必死の研究、3時間は語りたいところ僅か3行にまとめると、1.デンプン分解物とアルコールから、酵素法によるα―EG生産法を開発した(優良菌検索のアイデアもよかったが運もあった)2.小スケールの製造プラントの設計・運転により、製造原価を約1/2、000 (1g10円以下)を達成した(チームワーク最高、年末年始もなく研究、特許出願中)というようなことです。この物質、甘味の他にダイエット効果や美肌効果もあるらしい。α―EGならではの用途と需要、もう一歩の製造コストダウンで、工業化が実現するかも、どなたか研究してみませんか。

さて、次号最終回は、「アルコールで車を走らせる」につづく。

酢酸菌α-エチルグルコシド

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