カルシウムと骨

骨は体を支え、気骨は心を支える

中西 載慶 教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 

東京農業大学前副学長。醸造学科食品微生物学研究室。応用酵素学、バイオプロセス学。

東京農業大学第一高等学校・中等部校長。

中西 載慶(なかにし ことよし)

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

ミネラルは無機質ともいい、我々の生命の維持や活動に必要不可欠な元素の一群で、糖質、タンパク質、脂質、ビタミンとともに五大栄養素の一つです。厚労省の食事摂取基準では、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、その他6種類(※1)の計13種類をミネラルとしています。体内での役割は各物質により異なり、その必要量も性別や年齢(成長段階)などによって異なっています。ミネラルの1回目は、人体に最も多く含まれているカルシウムの話です。

カルシウムは、非常に反応しやすい金属元素ですから、カルシウム単体として自然界に存在できず、すべて他の元素との化合物となっています。大理石(炭酸カルシウム)、石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)、石膏(硫酸カルシウム)などが身近なカルシウム化合物です。人間は古代から多くのカルシウム化合物を様々な用途で利用してきましたが、カルシウムのみを単体として取り出すことは長い間できませんでした。しかし、1808年にデービー(英)が、石灰と酸化水銀の混合液を電気分解する方法により、初めてカルシウムを銀灰白色の粉末として単離することに成功し、金属元素としてのカルシウムの実体が明らかとなったのです。とはいえ、金属カルシウムを目にする機会はほとんどありません。なぜなら、空気に触れると直ちに酸化され、水にも溶け、他の物質とは容易に反応するため、厳重に管理・保管されているからです。

カルシウムは人体の必須元素で、体重当たり1.5〜2.0%含まれています。体重60kgの人なら約1kgがカルシウムです。その99%は、ご存知のように骨に存在しています。また、血液や体細胞中にも微量のカルシウム(イオン)が存在し、細胞の情報伝達や筋肉の収縮作用などに重要な働きをしています。ところで、骨は、約20%のコラーゲンなどの有機質と約80%の無機質とで構成されていますが、その無機質のほとんどはリン酸カルシウム(85%)と炭酸カルシウム(15%)です。ちなみに、人体には基本的に206本の骨があります。頭蓋骨29本、脊椎骨26本(頚椎7、胸椎12、腰椎5、仙骨1、尾骨1)、肋骨と胸骨25本、肩・腕・手64本、骨盤・脚・足62本です。骨は硬いのでカルシウム化合物の塊のように思われるかもしれませんが、実は活発に新陳代謝をしています。簡単にいえば、古くなった骨や不要になった骨を溶解する細胞(破骨細胞)と新しい骨を合成する細胞(骨芽細胞)が連携して常に骨が再構築されているのです。だから、骨折も治癒し、体の成長に伴って骨も成長するのです。体の中で利用されたカルシウムは、当然毎日少しずつ排出されますから、常に補給する必要があるのです。日本人のカルシウムの平均必要量は成人で1日約600mgですが、日本の食生活においては不足しがちなミネラルといわれています。カルシウムは、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品や大豆に多く含まれていますから、それらの食品を毎日コンスタントに摂ることをお薦めします。

昔の日本人には、206本の骨に加え気骨という大骨がもう1本あったように思うのですが、最近、この骨がめっきり細く小さくなってきているような気がします。ある若者を育てるのも私の役目なのですが、結構、の折れることなのです。カルシウムの話、次号につづく。

 

※1 銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン
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