なんといっても金

金を超える金属はなし

中西 載慶 教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授

東京農業大学前副学長。醸造学科食品微生物学研究室。応用酵素学、バイオプロセス学。

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

貴金属とは、一般に金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの8種の元素をいいます。名のとおり存在量が少ないため、希少価値が高く、いずれも非常に腐食しにくい性質を有しています。これらのうち、有史以来、人間の富の象徴、権威の象徴、あこがれの物質といえば、なんといっても金ということになるでしょう。そこで、2009年度の第1号にちなんで、そして金融危機、不景気の一日も早い克服を期待して、今回は、物質としての金の話です。

金は、非常に反応性が低く、他の物質と化合物を作りにくい性質ですから、金鉱脈中にも金そのものとして存在しています。しかし、金塊のように固まって存在することはほとんどなく、金鉱山といえども岩石1トン当たり1〜5g程度(0.0001%)しか含まれていません。大量の岩石から肉眼では分からないほどの微量の金を精製して取りだすのですから大変な作業です。ところで、地球上にはどのくらいの金が存在するかというと、約20万トンと推定されています。これまでに、その約70%にあたる14万トンが採掘されたと考えられていますから、残りはあと6万トン余り、正真正銘貴重な金属なのです。金は1064度で溶解しますが、蒸発させるためには3000度近い高温が必要です。普通、火事や災害でも3000度近い高温になることはありませんから、採掘された金は、消滅することなく、何らかの形でこの地球上に存在しているはずです。だから、古今東西、埋蔵金、黄金都市伝説等の話が尽きないのも無理からぬことです。

金は熱伝導性、電気伝導性に優れ、熱や湿気や酸素、その他化学的腐食に対しても非常に強い特性を持っています。従って、その用途は広く、宝飾品のみならず、携帯電話、コンピュータ、人工衛星などの電子部品に使われています。また、金は、非常に柔らかい性質で、例えば1gの金は1m四方、0.0001・の薄さの金箔にすることができます。金糸とすれば3000mもの長さに伸ばすこともできるとのこと。しかし、金(純金)は柔らかすぎるため、銀や銅、その他の金属を配合した合金として、硬度を高めたり、見栄えを良くする工夫などがなされています。ちなみに、24K(金)の表示は純金(純度99.99%以上)を示し、18Kは、18/24で金含量75%、14Kは、14/24で金含量25%を意味しています。また、貴重な金を最大限に利用するために、古くから金メッキが行われてきました。メッキは、外来語のようですが、実は日本語で、漢字では鍍金または滅金と書きます。古く金銅仏像の鋳造では、青銅製の仏像に、金を水銀に溶かした溶液を用いて、金メッキが行われていました。この溶液(アマルガム)をめっき(滅金)といい、その言葉が今日まで残っているとのことです。現在、主に金メッキは、酸素と水の存在下で金をシアン化カリウム(猛毒)に溶かし、反応させることにより「シアン化金カリウム」を生成させ、それをメッキ材料として利用しています。錬金術により金がつくれたら、誰もが抱いた夢ですが、残念ながら無理です。では、地球上の金はどうしてできたのか? その話は次号以降に。

黄金の国ジパング、霞ヶ関には埋蔵金があるらしいのですが、我が家には、金といえるものは、安物のネックレスと14Kの万年筆ぐらい。でも、健康と暖かい家庭、それこそが本当のエルドラド。金銅仏に合掌し、愛読者の皆さんのご多幸を祈りつつ、次号、さらに金につづく。

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