ホネ・カワ・スジえもん

鱶、鰐、鮫

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

ヒアルロン酸の次は、美容と健康を宣伝文句に、最近よく見聞きするコラーゲンの話。コラーゲンとは、人間や動物の皮、軟骨、骨、靱帯、腱などを構成する物質の一つで、特殊な構造とアミノ酸組成からなるタンパク質です。一般に、タンパク質は20数種のアミノ酸が様々な順序で鎖のように繋がって巨大な分子となっています。しかし、コラーゲンは特定のアミノ酸が非常に多く、かなり限られた種類のアミノ酸で構成されています。また、アミノ酸が鎖のように長く繋がった繊維状の3本のタンパク質(ポリペプチドといいます)が、らせん状に縄をなうように束になった構造をしています。それゆえ、非常に張力が強く、水に溶けない性質を持っています。人間の全タンパク質の約30%はコラーゲンで30種以上ものタイプが知られています。例えば、皮膚のコラーゲンは、真皮に含まれ皮膚の強さや弾力性維持に役立ち、靱帯や腱のコラーゲンは運動時の強い力に耐えるための働きをしています。骨や軟骨のコラーゲンは、その弾力性で衝撃による骨折などを防止する働きを持っています。

化粧品のコラーゲンは主に保湿剤の目的で配合されていますが、最近コラーゲン関連健康商品として、皮膚の張りや若々しさを保つとか関節の痛みを緩和するなどと宣伝しているものもあります。しかし、コラーゲンを食べたり飲んだりしても、そのような効果が得られるかどうかは、未だ科学的に十分証明されていません。つまり、コラーゲンは特殊なタンパク質ですから、体に貼ったり塗ったりしても直接体内に吸収されません。飲食した場合には、アミノ酸やペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)まで分解・吸収されますが、それらから必ずしもコラーゲンが合成されるわけではないので、機能性食品としてのコラーゲンの意義は低いといえます。当然、コラーゲンを多く含むフカヒレ、軟骨、鶏皮、牛筋、ゼラチンなどが、体のコラーゲン合成に直接関係し、美容と健康に良いという科学的根拠も明確ではありません。もっとも、特徴的な食感を生かした様々な料理として、楽しく、美味しく食せば、バランスの良い食事となるでしょうから、心や身体を元気にして、結局美容と健康に良いという解釈は成り立つわけで…。

ちなみに、日本は世界有数のフカヒレ生産国で、高級中華料理のフカヒレのほとんどは日本産とのこと。なお、フカは魚分類では鮫(サメ)ですが、日本では、古くからサメのことを鰐(ワニ)、鱶(フカ)ともいい、古事記や出雲風土記にも登場します。今でも、広島県の山間部では鮫の肉をワニ料理といい食し、出雲弁でもサメをワニと言うそうです。サメはヒレのみならず、肉も低カロリー、高たんぱく質、骨はすべて軟骨で利用価値が高く、蒲鉾やはんぺんなどにも加工されています。

うっとうしい梅雨、フカヒレスープでも飲んで、元気をつけたいところですが、高価で手がでません。せめて焼鳥屋の軟骨と皮で、コラーゲンの話でも肴に旨いお酒をちょっと一杯。哀しいかな、これ、オヤジの習性?

次号、コラーゲンからつくられる「ゼラチン」につづく。

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