鶏冠と乳酸菌

アンチエイジング

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

お肌に潤いを! 化粧品や美容のコマーシャルで話題のヒアルロン酸が今回のテーマです。ヒアルロン酸は、1934年にメイヤーら(米国)により、牛の眼球・硝子体から分離された物質で、ギリシャ語で硝子体を意味するヒアロスとこの物質を構成する成分の一つであるグルクロン酸にちなんでヒアルロン酸と命名されたとのことです。人間や動物のあらゆる組織に存在し、無色透明、水分保持能が高く、ネバネバ、ドロッとしたゲル状の多糖類の1種です。1gで6,000gもの水を吸収保持することができます。化学的には、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとよぶ物質が結合し、それが繰り返し1万個程度つながった構造をしています。

人間では、目、皮膚、関節、へその緒などに多く含まれ、眼球の形状維持や皮膚(肌)の水分保持、弾力性維持、関節のクッションなどの役目をしています。ヒアルロン酸は、体内で酵素により糖類を原料に必要に応じて作られていますが、非常に早い速度で、合成、分解、代謝、合成が繰り返されています。特に、体内のヒアルロン酸の約50%が存在する皮膚においては、2、3日ですべてのヒアルロン酸が新しく入れ替わるとのことです。しかし、細胞の老化にともないヒアルロン酸の合成能力も低下しますから、高齢者では赤ちゃんの20分の1程度になってしまうとか。細胞も不老不死ではないのです。つまり、人間には約60兆個の細胞がありますが、それぞれが様々な役割を演じながら死滅、再生を繰り返しています。勿論、体の各組織細胞によって、その寿命は様々で、脳細胞のように一生再生しない特殊な細胞もあります。しかし、ほとんどの細胞は、加齢とともに、再生能力や活性、機能などは低下していき、本来の働きができなくなります。これが老化ということです。残念ながら、細胞(体)の老化を止めることはできませんが、老化を遅らせることは可能です。最近では、老化防止、加齢防止に関する研究も進んでいて、これをアンチエイジングと呼んでいます。

ヒアルロン酸にもアンチエイジング効果があるとのことで、化粧品、美容、健康業界にとっては大きなビジネスチャンスになっているのです。ちなみに、ヒアルロン酸は、ニワトリの鶏冠(トサカ)から抽出する方法と乳酸菌などの微生物を利用する発酵法により製造されています。トサカの量にも限界がありますから、現在では発酵法が主流となりつつあります。でも、製造法の詳細は企業秘密のようです。

若くありたい! 美しくありたい! は万人の願いですから、アンチエイジング用のあらゆる製品が出ては消え、消えては出てくる昨今です。でも、心の老化防止が細胞の老化防止に最も効果的なことをお忘れなく…。

5月新緑の季節、落葉松の芽吹きが綺麗です。若葉もやわらかしっとり、赤ちゃんの肌のようです。次号しっとり物質つながりで「コラーゲン」につづく。

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