ピリ辛・激辛・スコヴィル値

トウガラシは世界一

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

このシリーズも26回目となりました。自らに気合いを入れる意味も込めてピリ辛、激辛の話で、新年をスタートすることに致します。「辛い」といえば、日本人にとっては、トウガラシ、ワサビ、カラシが御三家。そこで、まずトウガラシの話。トウガラシはナス科トウガラシ属の植物で、ナス、トマト、ジャガイモなどと同じ仲間です。熱帯地方では多年草ですが、日本では気温が低いため冬を越せず、毎年春、種をまいて秋収穫する1年草です。原産地は中南米で、15世紀の大航海時代に、かのコロンブスやバスコ・ダ・ガマによりヨーロッパ、インド、アフリカ、中国に伝えられたとのこと。日本には16世紀中頃ポルトガルより伝来し、「南蛮」とも呼ばれてきました。今や、世界中で多くの料理、食品に利用され、生産量も最大、世界一の香辛料です。

トウガラシには数種の辛味物質が含まれていて、それらをカプサイシン類と総称します。その一つがカプサイシンという物質で、油やアルコールによく溶け、冷水には溶けにくい物質です。痛覚神経を刺激して辛味を感じさせる作用、胃や腸を刺激して、消化液の分泌を促す作用(食欲増進作用)、内臓感覚神経に働き副腎のアドレナリンの分泌を促す作用(発汗作用)などがあります。発汗作用があるということは、体が温まり血液の循環を良くし、脂肪の燃焼を促したりしますから、冷え性に、ダイエットに効果あり、となるのです。とにかく、ダイエットという言葉は強い。宣伝効果抜群。この一言でカプサイシンなる物質名が一躍有名になったのです。

ところで、トウガラシの「辛さ」はどのように測定するのか? 単純、明快、人間の舌の感度を利用します。ウィルバー・スコヴィル博士が考案したもので、極めて簡便、優れた方法です。まず、トウガラシをアルコールに漬け、辛味成分を抽出します。次に、この辛い抽出液に甘みをつけた水溶液を一定の割合で加えていきます。舌が「辛さ」を感じなくなるまで加えた時を終点として、そのときの希釈倍率を示します。つまり、1,000倍希釈時が終点ならばスコヴィル単位(値)1,000、10,000倍希釈ならばスコヴィル値10,000と表示します。この数値によりトウガラシの「辛さ」が比較できます。ちなみに、この方法で測ったタバスコのスコヴィル値は約2,500、三鷹唐辛子は約50,000(タバスコの20倍)現在最も辛いトウガラシといわれるハバネロは約300,000(タバスコの120倍)です。純粋な化学物質としてのカプサイシンは、なんと16,000,000で、タバスコの6,400倍の辛さということになります。恐るべし、カプサイシン。最近では、カプサイシンの分析や辛味の測定には、液体クロマトグラフィーや味覚センサーなども使います。でも、人間の感覚は最高な分析機でもありますから、ソコヴィル値は、わかり易く便利、優れた方法なのです。

カプサイシンで汗をかくのも結構ですが、人のため社会のために汗をかく人が増えてほしいと思ったりもして……

おせちも、お雑煮もたべた。そろそろ美味しいお寿司がたべたい、ということで次号「わさびのシニグリン」につづく。

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