旨いは甘い

砂糖いろいろ 用途いろいろ

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

“美味い”、“旨い”の語源は“甘い”からきているとのこと。甘さは旨さに通じ、砂糖は美味いということになりそうです。人は、甘さの味覚を先天的に持っていて、赤ちゃんもミルクの甘さ1)をしっかりと味わっているそうですから、甘さは人間が経験する最初の美味しさの感覚といえます。もっとも、化学的には、砂糖の甘味は前号で紹介した蔗糖で、旨味は、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などの物質ですから甘いと旨いは別成分ということにはなりますが…。

ところで、一口に砂糖と言っても、実に多くの種類が市販されています。その違いは精製度合いの違いによるものです。精製とは不純物を取り除く操作のことで、甘味成分である蔗糖とサトウキビの糖汁に含まれる蔗糖以外の物質とを分けていくことです。ちなみに、砂糖の精製工程は次の通り。@収穫したサトウキビを細かく破砕するA圧搾して糖汁を搾り取るB煮詰めて固形化する。この固形物が「黒砂糖」で、蔗糖含量は80〜88%、その他に糖蜜、灰分(カルシウム、リン、鉄分など)、着色物質などの不純物を含んでいます。この黒砂糖から主に糖蜜を取り除き結晶化したものを粗糖(原料糖)といいます。一般に製糖会社は、この粗糖を輸入して、まず湯に溶かし活性炭などで透明度の高い糖液とします。この糖液から、濃縮・結晶・分離を繰り返しながら、精製度(蔗糖含量、色、風味、結晶の形状)の異なる様々な種類の砂糖を作り出しているのです。例えば蔗糖の含有率は、概ね上白糖98%、中白糖96%、三温糖95%です。つまり、その他数%の成分(水分や灰分など)の違いが、ご存知のように、色合いや味わいの違いとなり、料理との相性も決まることになるのです。一般に、精製度が低いものは濃厚複雑な甘さとなり、高いほど、乾いた感じのクセのない淡白な甘さとなります。精製度の高い代表的な砂糖がグラニュー糖と氷砂糖で、その蔗糖含有率は何れも99.9%です。

現在、砂糖のほとんどは食用ですが、糖蜜や砂糖の一部は、アルコール、アミノ酸、医薬品、オリゴ糖製造などの原料としても利用されています。ちなみに、膨大な石油化学製品のほとんどは砂糖からもつくる事ができ、石油が1バレル(160リットル)40ドル以上の価格ならば、コスト的にも見合う可能性があるとのこと。特に、ガソリンにアルコールを加えた混合ガソリンの使用促進やガソリンとアルコールの両方を利用できるフレックス車の登場などで、世界的に砂糖からのアルコール生産は高まるばかり。その上、石油は驚くことに現在1バレル70ドルにも達しています。埋蔵量からみても今後石油が低価格で安定するとは考えにくい状況ですから、砂糖の利用は益々拡大し、第二の石油となるかもしれません。心の燃料から車の燃料までをキャッチフレーズに、アルコール研究に関わってきた者としてはちょっと風が吹いてきたような気分。もっとも、風に乗れるかどうかが問題ですが……

次号「砂糖からつくる酒」につづく。

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