心も体も甘いものが好き

昔薬で今調味料

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

砂糖の歴史は食文化の歴史。美味しい料理、デザートも砂糖あればこそ。この砂糖、最近では、石油の代替エネルギーとして有望なアルコール製造の原料としても注目されていますから、有益、重要な物質なのです。砂糖の主成分は、学術的には蔗しょ糖とう、Sucrose(スクロース)、Saccharose(サッカロース)などといい、ブドウ糖と果糖が結合した構造の物質です。(下図)ご存知のように、気温の高い地域ではサトウキビ、寒冷地域では甜てん菜さい(サトウダイコン、ビート)から作られています。

サトウキビの原産地は、南太平洋のニューギニア周辺といわれ、それが東南アジアを経て起源前2000年頃には既にインドで砂糖がつくられていたようです。その後アラビア商人によりペルシャ、エジプト、中国に伝わり、日本には、天平時代に鑑真和上が薬として持参したといわれています。ちなみに、砂糖の英語名Sugarの語源は、古代インドのサンスクリット語でサトウキビを意味するSarkara(サッカラ)に由来するとのこと。一方、甜菜の発見は17世紀初頭、製糖技術の確立は18世紀半ばですから、サトウキビの歴史に比べれば、ごく最近のことです。砂糖は世界で年間約1億3千万トンが生産され、その比率はサトウキビから60%、甜菜から40%です。日本では、甜菜60万トン、サトウキビ18万トンですが、国内消費量の30%程度で70%は輸入です。日本人1人当たりの年間消費量は20キロ弱で世界149ケ国中91位。食べ物が氾濫している現状をみると意外な気もします。ダイエットブーム、“甘さ控えめ”の影響かも知れません。

砂糖の甘味は舌と脳で感じる話を既に紹介しましたので(2005、3月号)、砂糖が脳の活性化に役立つ話。人の脳は体重の約2%ですが、摂取する総エネルギーの20%近くを消費しています。しかし、脳のエネルギー源はブドウ糖だけで、タンパク質や脂肪は利用できず、その上、ほとんどブドウ糖を蓄えておくことができません。脳は四六時中働いていますから、安静時でも1日120轤烽フ量が必要です。したがって、通常はかなりの量のブドウ糖を補給し続けなければならず、デンプン(ブドウ糖が多数結合している)や砂糖などの炭水化物は、体、とりわけ脳においても必要不可欠な物質なのです。特に、砂糖はデンプンより消化・吸収が速く、小腸で瞬時にブドウ糖と果糖に分解・吸収されて数十秒で血液中に現れ、脳に送られるので、速効性のエネルギー源として優れているのです。疲れたとき、ストレスが溜まったとき、集中力を必要とするときなど、素早い脳の活性化に砂糖の摂取は効果的です。ストレスを和らげたり心身をリラックスさせる働きをする物質(β―エンドルフィン)や精神を落ち着かせる働きをする物質(セロトニン)の生成を促進させるとのこと。砂糖は甘くて美味しいばかりでなく、適時、適量の摂取で心も体も癒すのです。

だます人、だまされる人、詐欺事件は後を絶たず。甘い言葉に甘い誘惑、そんな甘さには注意が必要。甘い言葉が似合うのは恋人同士の会話ぐらいのものですから……

次号「種類いろいろ利用いろいろ」につづく

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