あれもこれもポリフェノール

フレンチ・パラドックス

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

♪♪〜どこの誰だか知らないけれど誰もがみんな知っている〜♪♪。私が少年時代、一世を風靡した月光仮面の主題歌です。懐かしく思い出される人も多いのではないでしょうか。最近の健康ブーム、物質名はいたってポピュラーなのに、その正体はあまり知られていない物質が次々と登場しています。ポリフェノールはその代表格で、健康効果ばかりが一人歩きしているようですので、お節介やきの化学屋の癖で少し解説することにしました。

ポリフェノールとは、光合成を行なうほとんどすべての植物に含まれている成分で、細胞の分裂や活性化などの調節機能や病虫害防御機能など、植物の生命活動全般に係わる重要な物質です。それ故、古くから膨大な研究が行われてきた物質でもあります。化学的には、六画形のベンゼン環に水酸基(−OH)のついた構造の物質をフェノールといい、このフェノールがいくつか繋がった構造をもつ物質の総称を“ポリフェノール”といいます。従って、ポリフェノールと呼ばれる物質は驚くほど多く数万〜数十万もあるといわれ、化学構造も働きも多種多様で大変複雑な物質です。もちろん化学構造や性質が明らかにされたものは、それぞれの物質名がついています。ちなみに、最近、よく目にし耳にするポリフェノールとそれを含む植物名を列挙してみます。カテキン(お茶、椿など)、イソフラボン(大豆)、タンニン(柿、栗など)、アントシアニン(ブドウ、ブルーベリー、赤紫色系果実など)、ルチン(そば)、セサミン(ゴマ)、ケルセチン(玉葱、ほうれん草、ブロッコリーなど)、クロロゲン酸(コーヒー)。まだまだあります。秋の紅葉に関係するフラボノイド類色素もポリフェノールの1種です。まさに、あれもこれもポリフェノールなのです。ポリフェノールは分離・精製が面倒なうえ、とても化学変化しやすい性質で研究者泣かせの物質でもあります。こんなポリフェノールが、一般に知られるようになったのは、1992年にアメリカで出版された「フレンチ・パラドックス」という本に起因しています。つまり、アメリカ人に比べ高脂肪食を好むフランス人に心臓病患者が少ないのは赤ワイン中のポリフェノール(アントシアニンやタンニンなど)効果であるらしい、との話に世界中が飛びついたからです。その理由は次号ということにしますが、ポリフェノールはそれ以来ブームが続いているのです。

2005年も、残り僅かとなりました。地震、台風、脱線事故、今年の10大ニュースは明るい話題は少ないかもしれません。感動・感激の10大ニュース、明るい未来の10大ニュースも聞きたいものです。

次号「ポリフェノール効果とフードファディズム」に続く。

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