水は3つの顔を持つ

水の特性を探る

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

水は水素が2個と酸素が1個結合した、とても単純な構造の物質ですが、変幻自在3つの顔を持っています。通常は液体、0℃以下に冷やすと固体(氷)、100℃以上では沸騰して気体(蒸気)となります。勿論、酸素や炭酸ガス、その他の物質でも、水と同じように3つの状態を示すものはたくさんあります。しかし、どの物質も、3態全てを観察するには、超高温や超低温あるいは超高圧といった特別の条件を必要とします。このシリーズで取り上げた「塩(固体)」も液体にするには800℃、気体にするには1400℃の超高温が必要です。水は、生活の中で簡単に3態を観ることのできる不思議な物質なのです。

水の液体としての大きな特徴は溶解力が強いこと。つまり、いろいろな物質を溶かしやすいことです。水の源である雨は本来無味無臭できれいな水です。

しかし、地球上に降り注いだ雨水は、地質層、岩石層などにしみ込んで、様々なミネラル成分やその他成分などを溶かし込んでいきます。

ですから、水のある地域や場所が異なれば、当然溶け込んでいる物質の種類や量が異なり、水の成分や性質も異なることになるのです。おいしい水もあれば飲料に適さない水もあるのです。我々の命も水の溶解力あればこそで、体重の70%を占める水分中には、生命の維持に欠かせない重要な物質が溶け込んで、様々な化学的反応が進行しています。水の溶解力は偉大なり。 水が固体の氷になったときの特徴は、体積が増えて比重が小さくなることです。水以外の液体は固体になると体積が減少し、比重は大きくなります。ここにも水の不思議さがあります。液体とは分子が流動している状態で、一般に分子と分子の隙間には気体が入っています。これが固体になるときは、分子がギュッと集まり引き締まってその中の気体を追い出します。その結果、密度(比重)が増して体積が減ることになります。しかし、氷の分子は水の分子より隙間だらけで気泡がたくさん入り込んでいてスカスカ状態になっています。そのため体積が増え、当然体積あたりの密度(比重)が減ることになるのです。ちなみに、比重とは、簡単に言えば同じ体積の水の重さと比較した物質の重さのことです。水の比重を1として、それより大きい値ならば水より重いことになり水に沈み、小さい値ならば水に浮くと理解すればいいでしょう。氷の比重は1より小さい、だから水に浮く。もしも、氷の比重が水より大きかったなら、川、湖、海の氷は水中に沈み水位が上昇して陸地が水没してしまいます。氷は容易に溶けず、魚も冷たくて困る。氷の比重が小さくて本当によかった。

水の最後は気体。蒸発して気体になり空の上で冷やされて雲になり、また雨となって液体となります。蒸発するとき周りの熱を奪います。この気化熱により体温調節や地表の温度調節がなされています。これも水の偉大な力です。

マルチ人間、多芸多才、いくつもの顔を持っている人がいます。うらやましい限りです。ジキル博士とハイド氏はいただけませんが……

次回につづく。

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