水のプロローグ

水は地球をめぐる

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

水は、地球上に存在する物質の中で、最も不思議で、偉大、そして計り知れない程大きな力をもっています。水の存在により生命が誕生し、水を利用してすべての生きものが生命活動を続けています。黄河、ナイル、インダス、チグリス・ユーフラテス川、古代文明もすべて水辺で発展しました。水なくしては地球の存在も人間の生活も語れません。こんな大切な物質にもかかわらず、水は、知っているようで、意外と知らない物質の一つかもしれません。地球の表面の3分の2は水に覆われています。しかし、その大部分(97%)は海ですから、飲料水や生活水として直接利用できる水は残り3%。その3%のうち、水蒸気、万年雪や氷、くみ上げることのできない地下水などを考えると、最終的には、約60億人の人類と動物や植物とが共存し、分かち合って利用できる量は1万分の1%(0.0001%)程度と計算されています。想像を絶するほどの微量です。

地球上の水は、ご存知のように雨によりもたらされます。雨の降る地域と量は、驚くほど異なっていますが、地球全体でみると、1年間に降る雨の量は毎年ほぼ一定で、また、どんなときでも地球上の3%位の所に雨が降っているとのこと。でも、ほとんど降らない所もあれば、降りすぎるところもあり、集中豪雨があったり、水不足が生じたり、何事も平均的にはならないものです。ちなみに、地球上の水は、地上と空をいったりきたりしています。地上の水が蒸発し雨雲となり、雨となって、地上に降り注ぎ、また蒸発して雨となる、この循環を何十億年もの間繰り返しています。太古の雨も今日の雨も同じ水が降っていることになるのです。水を汚せばどうなるか、いわずもがなの話です。

水は文化のバロメーター、文化的、快適な生活になればなるほど多くの水を使います。我々の生活用水の標準使用量は、洗面、食事、トイレ、洗濯、風呂、掃除、その他、合計で約240リットル。この他、都市機能としての、病院、ホテル、官公庁、企業などの水使用量を加えると、先進国では、なんと1人、1日当たり、約500リットルもの水を使用しているとのことです。ちなみに、人間が生活するために最低限必要な水の量は約5リットルとのこと。この量を確保するのも大変な国や地域もたくさんあります。今や、水は資源価値の高い貴重な物質です。各国が水資源確保、安全な水確保に取り組み始めています。

日本は食料の輸入大国(自給率40%)ですが、食・飼料の生産にも水が必要です。例えば、小麦粉1キロを生産するには約1トン、牛肉1キロつくるには約20トンの水を使うとのこと。日本は水の輸入大国でもあるのです。水は地球を循環しているとはいえ、地域格差の大きい貴重な資源です。浪費せず、汚染せず、大切に、大切に使いたいものです。

農作業の目安として中国でつくられた24節気によれば4月下旬は穀雨(春雨が降って、百穀をうるおし、芽を出させる頃)といいます。私の手がけている研究も、いっしょに芽が出るといいのですが……。

水の話、次号に続きます。

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