海の水はなぜしょっぱいか?

体にも塩がある

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

前副学長

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

「海の水はなぜしょっぱいの?」「それは塩を含んでいるから」「その塩はどこから来たの?」「……」。こんな経験ありませんか。これを科学的に説明するには、46億年前の地球誕生のあたりから話をしなければなりません。原始地球の表面は様々な鉱物の溶けた1、500度以上のマグマの海でした。大気は水蒸気や炭酸ガスや窒素などで覆われ、水は存在していませんでした。その後、地球の温度が下がると、大気中の水蒸気が雨となって地表に溜まり海となりました。しかし、この雨は火山ガスに含まれる塩化水素や亜硫酸などのため、強い酸性でした。そのため、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄など多くの鉱物が、その酸性雨に溶け、海に注がれました。やがて、海は地球上のほとんどの元素成分を含んだものとなり、40億年程前、初めての生命体(微生物)が出現しました。光合成微生物の誕生により酸素が生成されました。大気中の炭酸ガスや酸素は、当然、海に溶け込み、海中の様々な成分と反応し、あるものは沈殿し、あるものは溶けたままの海水となりました。その海水中にナトリウムイオン(Na+)と塩素イオン(Cl−)が存在し、これらが反応して塩化ナトリウム(NaCl)、いわゆる塩ができました。海には、この塩が約3%の濃度で溶けていますので、しょっぱい味がします。ちなみに、塩は、海水ばかりでなく、塩湖や地下かん水(地下にたまった濃い塩水)、岩塩などの形で地球上に多量に存在しています。

塩の結晶は、基本的には正六面体で、石膏より少し硬く無色透明な物質です(実際は光の乱反射で白く見えます)。800℃で液体になり、1、400℃以上になると気体になります。水1リットルには最大300gまで溶けます。

塩は、我々の体や暮らしとも切っても切れない関係にあり、とても重要な物質です。食品や調味料の製造、様々な工業製品の製造などの話は次回以降にゆずるとして、今回は人間の体に含まれる塩の量と働きについて少し解説します。成人の体は約60兆個の細胞でできていて、体重の約70%は水分です。この水分の約3分の1が血液や胃液など(これを細胞外体液といいます)ですが、この体液の重要な成分として塩が0.9%の濃度で含まれています。この濃度の食塩水を生理食塩水といいます。もしも血液がない場合にはリンゲル液として代用することができます。また、塩は骨にも含まれていて、血液中の塩分がなくなったりすると、血液中に溶け出すこともあります。ちなみに、体重60kgの成人の体には約200gの塩が含まれています。そして細胞と体液間の浸透圧を調整したり、筋肉の収縮を助けたり、人間が生きていくためには必要不可欠な重要な働きをしています。高血圧の方には悪者ですが、命もささえているのです。

「サラリー」の語源も塩からきているとのこと。これもなければ生きていけない・・・。

さて次号は「塩の力」に致します。 (塩の結晶の写真提供:東京農大電子顕微鏡室)

塩の結晶

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