東京農業大学短期大学部の特色GP
取組の概要
事業計画
実施報告書
学外実習とその歴史
問合せ
 
取組について

1.取組の概要

 本学は、実学主義を教育理念として、実験・実習に力点を置いたカリキュラムを編成し、実践力・即戦力となる卒業生を多く輩出してきた。特に実学教育を具現化した学外体験実習は、大学で学んだ知識の深淵化と現場での柔軟な知識の習得に大いに役立っており、実践力・即戦力の高い本学卒業生の特色を形成する重要な役割を果たしてきた。
  近年の少子化、意識の多様化や社会ニーズの変化に対応するためには、実習に臨む学生のモチベーションを上げる必要がでてきた。学生主導型の学外体験実習は、受入先と学生間の連携を重視した双方向型の事前・事後教育システムであり、これにより実習への満足度を高めることをめざす。更に、経験の異なる人との共同作業や社会的経験を高めることは、自らのキャリアデザイン構築に結びつき、ひいては地域で活躍する指導者養成に繋がる。


2.取組の実施プロセス

 最近、多くの教育機関がインターンシップを取り入れているが、本取組は、この言葉が使われるより随分前から生物生産技術学科(科目名:生物産業インターンシップ)・環境緑地学科(科目名:緑化企業実習)では試みられており、次の3点で他の機関と異なる特色を持っている。

  1. 建学の精神と教育の理念である実学教育の展開に立脚したものであり、両学科とも、41年間、継続してきていること。
  2. 実習先の全ては、本学卒業生であり、本取組の意図と目的を極めてよく理解しており、教員と受入先との密接な連携・調整により、教育効果が極めて高いこと。
  3. 本取組は、基本的に受入先に宿泊し、短期間で実践的な技術と知識の習得が図られること。また、実習先の方々と寝食を共にするため、社会人としての意識を涵養することができること。

 醸造学科ではほぼ同様の実習(科目名:醸造特別実習)が行われている。醸造学科では選択科目として醸造関係施設の見学授業を先に行い、単位取得者に対し本取組を行なっており、上述2学科と同様な成果が得られている。
栄養学科では栄養士養成の科目(給食管理学外実習)として設置され、病院・事業所で、従業員と同じ勤務内容で自宅、下宿からの通い実習が行われている。
  これらの実習を通して各学科の学生は教科書知識偏重の教育とは異なり、体験から得られる知識と技術への応用に触れ、ここで得られた興味を実現すべくその方面への就職または更に興味を深めるために進学へとキャリアデザインの構築に役立てている。  
  教員も実習先への訪問・見学時の意見交換で現場におけるニーズの変化、学生の興味の変化等に触れることができ、次年度の実習のみならず教育進路指導に反映している。  
  受け入れ先は従来、学生の憧れ的な希望により決めており、ミスマッチもあったが、受入先の仕事内容などをビデオやスライド、OHPで示して希望調査を行うことで、ミスマッチが少なくなった。学生並びに受入先双方の満足度をより一層高めるため、双方向型の事前・事後教育システムを用いた取組を以下のとおり構築する。

ステップ1 学生は1年次の10月に本学教員との打合せで希望職種を選定する。
ステップ2 学生は決定した受入先に自己プロフィールを送付する。
ステップ3 受入先は、学生のプロフィール受領後、受入先の概要(農家であれば栽培作物の種類、作付面積など)、受入中の作業内容、家族構成、訪問学生へのメッセージなどを送る。
ステップ4 学生は、受入先の状況を把握することで、早くから実習内容ならびに受入先の地域的特徴を予習する。
ステップ5 生物生産技術学科50箇所、環境緑地学科25箇所、醸造学科20箇所、栄養学科18箇所の合計113箇所で実習を行なう。
ステップ6 実習後、学生および受入先は、満足度の高かった点や次年度へ向けての改善点などをレポートに盛り込み、提出する。なお、提出された学生レポートは、受入先にも送付する。
ステップ7 実習後、学生自身による学科別報告会を、受入先を招いて開催する。この報告会は次年度派遣学生を対象に行なわれ、実習の心構えなど体験学生・受入先からの生の声を伝えることで、低学年のうちから実習へのモチベーションを高める。(なお、発表学生は事前に実習内容を取りまとめ、パワーポイントなどの情報機器・ソフトを使用し、発表することでプレゼンテーション能力の向上につなげる。)
ステップ8 実習学生全員や受入先からのレポート、アンケート結果、名簿などをまとめ年度報告書を作成する。報告書は受入先、実習学生、次年度派遣学生、教職員、地域自治体・関係団体及び出身高校に送付することで実習への取組を公表し、地域・高校との連携を深めて行く。
ステップ9 最終年度の平成20年度には、これらの総まとめとして「学生主導型体験実習が拓くキャリアデザインフォーラム」(仮称)を行なう。

 以上のステップ1から9を学生自らが段階を踏んで学習することにより社会的経験を得て自分自身のキャリアデザイン構築に結びつけ、最終的には地域における多様な職種での指導者を目指すことになる。

3.取組の特性

1) 教育効果を上げるための工夫

 過去の実績から@学生の希望職種ミスマッチによる問題 A一般常識的な問題 B実習後のフォローアップ C職業意識の醸成 など多くの問題が挙げられていた。
  これらの問題を解決する手段の一つとして、従来は学生の憧れ的な希望により決めていた受入先の選定を、生物生産技術学科の教員が自前で撮影し受入先の仕事内容などをビデオで学生に示すことでミスマッチが少なくなったことから、各学科もビデオやスライド、OHPで示して希望調査を行い、ミスマッチを少なくすることを計画している。
  また学生の満足度をより高めるため、学生主導型による受入先との双方向による実習の取組が必要と実感した。2年間の修学年限内に、本取組の意図と教育目的を達成するため改善した平成18年度からの新たな実習実施方法および概念図を次に示す。


2) この取組への学生・受入先・教職員数

この取組は、醸造学科を除く3学科が必修科目として位置づけている。

  1. 生物生産技術学科は学生160人と教員11人で10日間の実習を作物・野菜・花・果樹・畜産および花販売店、種苗会社や動物病院など11分野、50の受入先で行なっている。
  2. 環境緑地学科は学生90人と教員7人で5日間の実習を個人庭園、造園設計会社、草花・樹木生産会社、環境調査会社、環境NGOの7分野、25の受入先で行なっている。
  3. 醸造学科は学生約30人と教員7人で5日間の実習を酒・味噌・醤油の3分野、20の受入先で行なっている。
  4. 栄養学科は学生160人と教員11人で10日間の実習を病院、事業所給食施設等18の受入先でおこなっている。

3) 学内の支援体制(FD活動、運営支援等)

 本学の教育理念である「実学主義」の実践の場として本取組は重要な科目として位置づけられ、FD活動の中でも学生ができるだけ早い時期に多様な人との良い繋がりをもち、早い時期に自分のキャリアデザインの構築ができるよう意図している。
本学および学科はこれらの受入先の好意と協力に対し、5年継続先には学科長名の、15年継続先には学長名の感謝状を贈呈している。

4.取組の有効性

1) この取組を通じての教育上の効果

 本取組は、講義科目と学内実習との連携が図られていることから、効率的に行われており、多くの学生がこの取組の教育目標を達成している様子が、そのレポートにより認めることができる。経営哲学や信念を持ち関連企業の第一線で活躍している受入先の各学科OBと短期間であっても接する機会を得ることにより、教室の講義や実習では得られない多くのものを学生たちは学んでいる。また、受入先に宿泊する場合は学生自身の今まで育ってきた家庭環境との違いが理解でき、OBの人生観や多様な人間関係に触れ、その後の学業に向かう姿勢が一変する者が多い。受入先と同様の職業に就きたいと努力する学生もおり、また、自己の知識や技術の未熟さを知り、更に専門の勉強をするために編入学を志す者も増加している。
これら学生に対して進路をより具体化させるために、クラス担任が個々の学生に積極的にアドバイスを行い、適切な進路指導を通して教育目標の達成に努力している。


2) 教育効果を測定するための評価方法等

 卒業時に本取組参加者に対しアンケート調査を行って、忌憚のない意見を求め、この結果を次年度の取組に反映させている。
単位評価方法としては、学生が提出する実習レポートと受入先からの評価報告を基に、教員が総合的に評価する。学生の実習レポート40%、受入先評価 30%、受入先との報告会・フォーラムへの寄与度 30%を基本とし、教員の受入先訪問や個々の事情を勘案して、秀、優、良、可、不可の5段階評価を行う。


3) 学生および教職員は、この取組をどのように捉え評価しているか

 学生のアンケート結果では本取組による実学教育が、極めて高く評価されている。一部の学生は通常の実験実習と同様の授業と捉え、参加しているが実習後には、学習やキャリアデザインの取組姿勢に大きな変化が見られ、受入先・教員共に本取組が学生の生涯に渡り貴重なものとなっていることを認識し、更なる発展を目指している。

5.今後の実施計画

1) 実施計画を実現するための人的、物的、財政的条件の整備状況

 本取組の教育効果を高めるためには、以下の条件を整備又は計画する必要がある。
  これまで本取組は教員主導で行ってきた。そのため、学生が実習に参加する姿勢が受け身の場合が多く、学生のニーズを十分とらえ切れていない、などの問題点があった。今回、学生を本取組の主体として取り込む、すなわち、学生主導型に変える(人的条件の整備拡充)ことにより、受入先と学生による双方向での情報交換が可能になり、学生自身の自覚も生まれることが期待される。また、学生が報告会を主催し、次年度派遣学生に情報を伝えることにより(物的条件の整備)、学生が自分の問題としてこの取組に積極的に参加し、受入先とのミスマッチ、トラブルの減少が予想される。
  また、現在の受入先は、学生負担による交通費の関係で東京近県に偏っており、多様な受入先が用意できていないという問題点がある。今後ますます学生のニーズが多様化していくことが予想されるので受入先の拡充および、受入先のミスマッチを防ぐ方策が必要となるが、多様なる受入先の確保については、全国組織である東京農業大学校友会に協力を依頼する(人的財政的条件の整備拡充)。ミスマッチを防ぐ方策としては、事前にビデオやスライドなどを利用し(物的条件の整備)、実習施設・内容、業界の位置付け等を紹介する説明会と学生の体験を交えた報告会を開催する。


2) 各年度の実施計画

@平成18年度
A) 1年次生後学期に実施する実習風景のビデオ撮影
B) 実習生・受入先からの実習報告書の提出と評価
C) 次年度実習への評価・改善策の検討
A平成19年度
A) オリエンテーション、フレッシュマンセミナーの実施
B) 実習学生・受入先による報告会(学外体験実習ガイダンス)の開催
C) 学生希望調査・受入先要望調査と実習先の決定
D) 学生と受入先双方での情報交換と事前学習
E) 学外体験実習実施と実習風景のビデオ撮影
F) 学生・受入先双方から実習報告書提出
G) 短期大学部学科長会での教育効果検証と改善部分の検討
H) 年度報告書の作成
B平成20年度
平成19年度のA)からF)までは同様。
A) 学生主導型体験学習が拓くキャリアデザインフオーラム(仮称)の開催
B) 短期大学部学科長会での教育効果検証と改善部分の検討
C) 年度報告書の作成

3) 検証・改善に結びつけるためのシステム方法

  1. 単位評価は各学科で行うが本取組運営上の評価基準は評価機関(短大部学科長会)を設けて共有し、公平な評価を行う。
  2. また、学生・受入先からの報告書と実習体験学生からの卒業時のアンケート結果を基に、短大部学科長会において次年度への改善点を協議し、具体策を構築する。
  3. 5年もしくは10年後、卒業生を対象にこの実習の取組がどれだけキャリアデザインの構築に役立ったか、また、職種選択にあたりどう活かされたかをアンケートによる検証で実績確認を行なう。