味噌の仕込み混合「醸造学科」

学生主導型体験実習が拓くキャリアデザイン

東京農業大学短期大学部 栄養学科(食品学研究室)教授

安原 義(やすはら ただし)

主な研究テーマ「食品から生理活性物質の単離」、「食品分析法の改良」

著書「分析試料 前処理ハンドブック」(共著)丸善株式会社

<特色GPとは>

特色ある大学教育支援プログラム。大学教育の改善に資する取り組みのうち、特色ある優れたものを財政支援する。各事例は広く社会に情報提供され、高等教育の活性化促進を目的とする。

平成18年度は、「教育方法」「教育課程」などで工夫・改善の取り組みを公募した結果、331件の申請から48件が選ばれた。

実学主義を教育理念に

現在、全国の短期大学が置かれている環境はまことに厳しい。その中で、設立55年の歴史を持つ東京農業大学短期大学部には、全国の農学系短大学生の3分の1近くが入学してくる。農学系教育におけるその重責を果たすべく、今後3年間、大学(教員・職員)、学生、校友、保護者が一体となって、「学生主導型体験実習が拓くキャリアデザイン」の構築に取り組んで行く。

短期大学部には生物生産技術、環境緑地、醸造、栄養の4学科があり、それぞれ個性的な教育・研究プログラムを組んでいる。実学主義を教育理念に実践力を培い、即戦力となる卒業生を送り出してきたと自負している。

その卒業生の活躍する現場で、技術・知識だけでなく、社会人としての意識、心構えなどを学ぶ。従来のインターンシップ制度を基軸に、一層のキャリアデザイン構築を促すのが、新たな取り組みの狙いである。少子化の時代にあって、狭い範囲の人間関係で育ち、とかく指示待ちで自主的行動を不得手とする学生たちにとって、貴重な体験となるだろう。それを土台として、地域に貢献する人材、さらには地域の指導者養成につなげたいと考えている。

卒業生が実習受け入れ

近年、多くの教育機関が体験入社などのインターンシップ制度を取り入れているが、本学短期大学部では、この言葉が定着する以前から、同様の取り組みを続けている。

特に、本学卒業生に実習受け入れ先とする生物生産技術、環境緑地両学科での取り組みは41年間に及ぶ。主な実習先は、生物生産技術学科が各種の農家・農場をはじめ、花販売店、種苗会社など。環境緑地学科は、造園会社、草花・樹木生産会社、環境調査会社などである。

また、醸造学科は酒・味噌・醤油の3分野で、栄養両科は病院、給食施設などで同様の学外実習を行っている。

基本的には受入れ先に宿泊し、短期間で実践的な技術と知識を修得する。また、寝食を共にして、社会人としての意識を涵養するなど、高い教育効果をもたらしている。

学生主導で体験報告会

無論、解決すべき課題も少なくない。従来、実習先は学生たちの希望を取り入れて選定してきたが、予備知識がなく、単なる憧れに過ぎなかったような場合、いざ実習に入ってから、興味を失う事態をしばしば招いた。

そこで、実習期間中にビデオやデジカメで実習先の仕事内容や様子を情報化し、これらの情報を用いて、実習体験報告会を学生主導で行う。後輩学生はその情報を元に実習先の選定を行うことで、ミスマッチを減らし、学生ならびに受入れ先双方の満足度をよりいっそう高める。学生主導で行うことで、積極的な関与の姿勢を育てることも狙っている。

働くことの大切さを痛感

実習体験後、学生たちは報告書を提出する。「働くことはこんなに大変で、そして楽しいことであることが分かった」「収入を得るということは大変なことである」「アルバイトで働いた経験とは異なる責任を痛感した」など、貴重な体験だったことがうかがえる。また、「実習した分野の仕事に興味が倍増した」といった報告もあり、キャリアデザインの構築に結びついていることがわかる。

今後、実習参加学生や受け入れ先からのレポート、アンケート結果など各種資料をまとめ年度報告書を作成することにしている。報告書は、関係方面へ配布、また、インターネットで公表し、地域・学校との連携を深める。最終年度には、とりまとめのフォーラムを開催、実習受け入れ先なども招いて議論を交わし、さらなる教育拡充の糧とする計画である。

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