東京農業大学
バイオサイエンス学科
機能性分子解析学研究室
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分子の形が生物の働きを決める

「なぜ薬が効くのか、なぜ匂いを感じるのか」。一見無関係に見えるこれらの現象も、薬の分子(分子とは働きを持つ最小単位のこと)、匂い分子が遺伝子に由来するタンパク質に結合して起こるという共通点を持つ。そこで、植物からは新規の抗アレルギー分子や抗菌分子などを、昆虫からはフェロモン分子を探しだし、それらがどの遺伝子・タンパク質に結合し、どのような仕組みで生物に作用するのかを調べている。遺伝子・タンパク質解析、精密機器分析(質量分析、核磁気共鳴、X線)などを駆使し、有用な分子の創出を行い、医農薬および関連分野への応用をめざしている。


研究紹介

分子の「形」を手がかりに新薬のタネを探索

薬はタンパク質にくっつくことで作用する
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遺伝子は「生物の設計図」といわれます。しかし、実際に私たちのさまざまな生命現象に関わっているのは、遺伝子から作られるタンパク質です。

たとえば身体のどこかを打撲すると痛いですよね。それは体内にある、痛みの元となる物質を作るタンパク質が働いたからです。けれども、アスピリンのような痛み止めの薬を飲むとおさまる。薬の成分がそのタンパク質にくっつき、痛みの物質を作らせないようにしたためです。つまり薬は、病気や症状に関係しているタンパク質にくっつくことで、その働きをとめるしくみになっているのです。

薬がくっつくタンパク質を「ドラッグターゲット」と呼びます。しかし、人間の遺伝子は約2万5000種類。そこから作られるタンパク質は約10万種類あるともいわれているので、時には狙ったもの以外にもついてしまう場合もあります。これがいわゆる「副作用」です。代表的な例が抗がん剤。がん細胞が作るタンパク質だけにくっついて働きをとめるはずが、他の場所にもついてしまうために、脱毛や吐き気といった余計な症状が起こるのです。

矢嶋 俊介 教授
矢嶋 俊介 教授

 

新たな医農薬の開発に役立つ分子を解析中
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タンパク質はいわばカギ穴、薬はカギのようなもの。この二つがぴったり合うことが、薬が作用するために最低限必要な条件です。ということは、どんなカギが合うかは、カギ穴の「形」を調べればわかりますよね。つまり、タンパク質の形がわかれば、そこにどんな形の物質がくっつくか=どんな物質が薬として効く可能性があるかが見えてくるのです。

タンパク質や薬として働く化合物は、いくつもの分子(物質の性質をもつ最小単位)が立体的に組み合わさってできています。機能性分子解析研究室では、こうした分子の「形」を調べ、それを手がかりに新薬のタネになる分子を探したり、ターゲットとなるタンパク質が身体の中でどんな働きをしているのかを明らかにしています。

研究の一つが、花粉症などのアレルギーや、体内の過剰な免疫機能を抑える分子を植物の中から見つけること。現在解析しているものの一つが、キノコから取り出した分子です。これは、臓器移植を受けた時に起こる拒絶反応などを抑制する効果が期待されているもの。そして具体的にどのタンパク質がこの分子のターゲットになり、どんなしくみで作用するのかがわかれば、いずれ新薬の開発につながるかもしれません。

また、昆虫のメスがオスを引き寄せるために分泌するにおい物質「フェロモン」についても研究しています。実は、「においを感じること」と「薬が効くこと」は同じしくみ。においの分子が鼻の中にあるタンパク質にくっつくと、そこから神経に電気信号が送られ、脳の中でにおいとして認識されるのです。この研究は、フェロモンを利用して害虫を1カ所におびきよせ、まとめて退治するといった、化学薬品を使わない農薬の開発に役立つ可能性があります。

 
分子の「不思議」を解き明かそう
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このほか、放線菌という細菌が作るタンパク質の形や機能についても研究中です。放線菌は抗生物質を作る菌として有名ですが、研究室では放線菌を薬だけでなく環境浄化にも役立てようと考えています。その一例が、温室効果ガスの一つであるNOxを無害化すること。NOxは自動車の排気ガスなどに含まれる窒素化合物ですが、放線菌のタンパク質は窒素化合物にくっつくと無害化する働きがあるのです。このように、分子の形を明らかにしていくことは、製薬に限らずさまざまな分野で生かせるのです。

残念ながら分子は顕微鏡で見えるものではありません。このため、X線をはじめ精密機器を使い、理論的に分子の形を導き出していきます。実験では動物や植物の個体ではなく、それらの細胞の中にあるものを扱うので、ちょっとイメージしにくいかもしれませんね。でも、だからこそ、そんな小さなものの働きが少し変わっただけで、私たちの大きな身体の機能が劇的に変化したり、病気が治ったりするなんて不思議だと思いませんか?

 自分自身で「不思議」を見つけ、それを解き明かしたい。そんな気持ちをもっているみなさん、ぜひ一緒に研究しましょう。

 

 

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