東京農業大学
バイオサイエンス学科
動物分子生物学研究室
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生命現象の分子メカニズムに迫る遺伝子工学

高等動物は約3万個の遺伝子を使い分けることによって、発生・成長・恒常性維持、さらには記憶・思考・感情といった脳高次機能など、さまざまな生命現象を制御している。当研究室がめざすのは、生体の恒常性維持や脳機能などの生命現象の分子メカニズムの解明。遺伝子組み換えマウスを作出し、分子生物学・行動学・生理学・イメージングなどの多彩な手法で解析を進めている。さらに、医学・農学的応用も見据えて、脳疾患モデルマウスの作出、遺伝子治療に向けた遺伝子工学的技術の開発、生体内分子イメージング、脳機能維持に必須な栄養素の検索も試みている。


研究紹介

未知なる臓器・脳のメカニズムを解き明かす

「記憶」をカギに脳のメカニズムを研究
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脳は私たちの心や意識をつかさどっています。しかし「未知の臓器」と呼ばれるように、そのメカニズムはほとんどわかっていません。動物分子生物学研究室ではその謎を解き明かすべく、脳内の遺伝子の働きや、脳が分子によってどうコントロールされているのかを研究しています。具体的には、マウスの遺伝子を操作し、その働きを強めたり弱めたりすることで、脳にどんな影響が出るかを調べています。

研究の柱の一つが記憶に関するメカニズム。みなさんは何か衝撃的な体験をした後、その記憶がよみがえり、怖くなったことはありませんか。実はこうした「恐怖記憶」を作るのは、動物や人間に共通する防御反応なのです。恐怖記憶を作りそれを思い出すことで、以前危険を感じた場所に近づかないようにして自分を守るのです。

ただし、いつまでも恐怖記憶に心を支配されていては暮らしていけません。そこで脳には恐怖記憶を作る一方、それを消去する力もあるのです。以前怖い思いをした場所も何度か行くと平気になりますよね。これは、恐怖記憶を長い時間思い出しているうちに、怖い出来事はもう起こらないことを学習し、「もう怖がる必要はないんだ」と記憶が書き換わったからです。しかし、思い出す時間が短いと記憶の書き換えは起こらず、恐怖感は消えません。したがって、怖い記憶を忘れたい時はつらくても思い出し続けたほうがよいのです。

喜田 聡 教授
喜田 聡 教授

 

記憶力アップにはビタミンAが有効?
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恐怖記憶が残るか消えるかは、思い出す時間の長さで自動的に決まるように見えます。しかし実際は、そのつど脳がどちらを選ぶか判断しているのです。もしかしたら脳内で、「まだ危険だから忘れるな」という細胞と、「もう安全だから忘れていい」という細胞がバトルし、その結果で決まるのかもしれません。いずれにせよ、こうした意志決定を脳がどう行っているのかがわかれば、心の動きという、より高度なメカニズムの解明につながるはずです。

このほか、記憶能力を高めるしくみについても研究しています。これまでに記憶能力をコントロールしている遺伝子を3つ特定しました。今はそれらの働きを活性化し、記憶能力をアップする化合物を食品成分の中から探しています。

有望なのが、にんじんなどに含まれるビタミンA。ビタミンAと脳の関係をいろいろテストしてみると、ビタミンAが記憶能力にかなり関与していることがわかりました。現在マウスにビタミンAを大量摂取させていますが、その有効性が実証できれば、認知症の治療や老化による記憶力の低下防止に役立つでしょう。

今後さらに研究を進め、「記憶力アップにはこの食品」「キレにくくするにはあの食品」というように、脳の働きを高める栄養素を科学的根拠に基づいて示す、「脳栄養学」のようなものを発信できたらと考えています。

 
脳の働きを高めるには「環境」も大切
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ところで、脳の働きは遺伝子だけで決まるわけではありません。環境という外的要因も大きく関わっています。たとえば、小さな箱の中で育てたマウスより、大きな箱の中でおもちゃを与えて育てたマウスのほうが記憶能力が高いことが実験で明らかになりました。遊ぶことで脳に刺激が送られ、働きが高まるのです。

脳のメカニズムをすべて解明するには、まだ長い時間がかかるでしょう。けれども、わからないことをわかるようにしていくことが科学なのです。だから、研究の中で壁にぶつかってもへこたれない、元気な人に来てほしいですね。そしてもう一つ、文系科目も含めて幅広く勉強しておいてください。脳を科学するからには、できるだけ「やわらかアタマ」のほうがいいですよ。

 

   
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