奥州カブリ旅



"先輩ほんとに岩手まで行くんですかぁ~!?俺は流石に厳しいッス!!"

そう言っていた1か月前。
しかし11月19日、気がついたら私は仙台に居た。

マイマイカブリの中でも屈指の美麗種、キタカブリに魅せられた男達の旅。
メンバーは4年の私、OBの坂田さん、山口さん、城所さん、斉藤さんの5人だ。
オサ掘りなんて1回しか行った事のない初心者の私が一丁前にもキタカブリを採ろうと今回参加したのである。

朝6時半、仙台駅に到着した。高速バスは予想以上に快適だった。
しばらく駅周辺をぶらぶらして集合場所へ向かうと先輩方は既に集まっていた。
今回は仙台駅まで各々が高速バスで行き、そこからレンタカーで岩手県へ行くと言うプランだ
8時に仙台を出発し岩手県へ向かった。

「この辺りはまだコアオだねぇ~」

などと、近づくキタカブリに心を躍らせながら車は走る。
そして2時間弱で最初のポイントへ到着した。

 

戦いが始まった!

「あぁ!居た!」

河川敷に入ってすぐに山口さんが一頭目を仕留めた。

"ほんとですか!見せて下さい!"といきたい所だが、そんな時間が勿体無い。
一刻も早く自分の手でキタカブリを掘りたい一心で堪え先へ進んだ。
早速キタカブリが出た事で"これはいけるぞ!"と思ってより気合が入ったのだが、崩せど崩せどキタカブリは出て来ない。
出てくるのはアカガネオサムシやアオオサ、そしてお馴染みのアオゴミムシばかりだ。

アカガネオサムシ



倒木の根際の土からはノコギリクワガタの新成虫が!



蛹室で越冬してる個体を見れたのは地味に嬉しい。

しばらく奥に進むとかなりの大きさの倒木が2本横たわっているのが見えた。
近づいて見ると適度に朽ちていて、しかも樹皮も残っている。
マイマイが隠れるには絶好の環境の様に見え、一気にテンションが上がった。



"凄い…これは絶対に採れる!これだけでかい倒木に居ない筈が無い!"

近くに誰も居ない事を確認し、独り占めを企んだ。
一気に2ケタも夢じゃないのでは?と思うと自然と笑みがこぼれた。
まだ採った訳でも無いのに先輩達の前でしたり顔をする自分の姿を浮かべ木を崩した。

が、しかし現実はそう甘くは無く、とうとう私の前にキタカブリは現れなかった。
あれだけ大きい倒木を裸にして出て来たのは数匹のアカガネオサムシのみであった…なんという事だ!!

時間もある程度経ったので、集合場所近くまで戻ると城所さんの姿が見えた。


「どうだった?」

「全然居ませんよ~城所さんはどうですか?」

「7、8頭は採ったかな~」


えっ


凄い…これが経験値の差かと圧倒された。
大きい材を前に先輩方を出し抜けるかもとほくそ笑んでいたさっきの自分が恥ずかしくなった。
山口先輩も最初に採れた材を崩していたらまた追加があったようだった。

しかし体感的にかなり数は少ない様で、材が湿っている事から台風による洪水でマイマイが流されてしまったのではないだろうかと先輩方は言っていた。
普段なら絶対にいるような場所にもいない原因はこういう訳だそうだ。
なので城所さんは浸水していない様な高い位置にある材を崩して採集していたそうだ。
手当たり次第に崩していても採れない、自分が未熟である事を思い知らされた。

結局この場所では城所さんが8頭、山口さんが2頭、斉藤さん、坂田さん、私はボーズであった。

昼食を採り次のポイントへ移ったがここもあまり環境が良くなく、山口さんが4匹追加、斉藤さんが1頭採ったのみであった。
ボーズは坂田さんと私だけになってしまった。

そして本日最後のポイントへ到着した。
明日もあるが、明日はコアオマイマイを採りに仙台方面へ上る為キタカブリを採れるのは今日しかない。
ここもあまり良い環境では無かったが、目を血走らせ材を探した。

良さそうな材では無かったが、それは突然現れた。

"いたぁあっっ!!!"

 

キタカブリだ!念願のキタカブリ!
すぐにでも手に取りたかったが、落ち着いてデジカメを出し写真を撮った。
ようやく採れた!この瞬間が楽しいから虫採りは止められない。

「松岡~~お前だけは仲間だと思っていたのに~~(泣」
と坂田さん。
すいません、でも今は先輩との絆よりもキタカブリです。

こうなったら追加個体を!と思ったのだが、仕留めた安堵感からかどっと疲れが来て体が動かなくなってしまった。
暗くなった事もありその日の採集は終わった。

夜は私だけ北上駅のカプセルホテルに泊まり、先輩方は漫画喫茶で夜を過ごした。
初めてのカプセルホテルに興奮したが、やはり疲れていたので10時前には寝てしまった。
ちなみに城所さんは漫画喫茶で"ちゃお"を読んでいたそうだ

翌朝5時半起床、本当ならばコアオマイマイを狙いに仙台に向かう筈であったが、 キタカブリの成果が乏しかった為早朝の数時間をキタカブリの採集に充てる事にした。

だが良い環境は見つからず、結果は散々…。
しかし私はなんとか1頭追加をし、坂田さんも一頭得る事が出来た。

そしてキタカブリの地へ別れを告げ、宮城方面へ向かった。
コアオとキタカブリの分布境界との事で皆楽しみにしていたのだが、まともな河川敷が全く見つからず誰も成果を上げられずタイムオーバーとなってしまった。

先輩方は翌日も仕事なので、夕方発の高速バスで帰らなければならないのだ。
悔しいが午後1時頃には切り上げて、仙台駅へ戻る事になった。
3時にレンタカーを返し、駅の近くの一風堂でラーメンを食べて旅は終わった。

結果は5人で20頭弱と、悔いの残るものとなった。
しかし数では無い、採るまでの過程こそプライスレスなのだ。
憧れの虫をこの手で採ったその事だけでも、なけなしの金を叩いた価値は充分にあったと私は思う。
だがやはり物足りなさはあったのだろう、リベンジを誓って私たちは解散したのであった。

 
キタカブリ(左)とその他戦利品(右)

アオオサムシ(東北カラー)、クロナガオサムシ、アキタクロナガオサムシ
アカガネオサムシ、ヨツボシゴミムシ、チビアオゴミムシなどなど。

短い旅でしたが、念願のキタカブリが採れて楽しかったです。
旅行中も色々と先輩方にお世話になりました、有難うございます。
この場を借りてお礼申し上げます。是非また採集に連れて行って下さい!

2011 学部4年 松岡