日本中が盛り上がりを見せた世界陸上2011 inテグ.
その20日前,選手たちより一足早く三田先生と私はテグの地を踏んでいた.
 
 私はハマベゾウムシという海浜の飛べない昆虫について研究している.
彼らの遺伝子を調べることで、各個体群間の関係を見る、そしてどのようにして今の分布が形成されたかを考察するのだ.
 さて、日本列島と朝鮮半島ともに分布する移動能力の限られるハマベゾウは双方の個体群間にどのような関係があるのだろうか?
修論を制作するうえで日本の個体群と大陸との関係性を計るために韓国の個体群は重要なのである.同時に真夏の韓国の砂浜で調査するわけであるから,
韓国と日本の水着ギャルに違いはあるのか?という素朴な疑問の解決も内に秘めた目的であった.

 釜山からKTXで1時間,受け入れ先はテグにある嶺南大学校の昆虫学研究室で膜翅目を主に研究している.到着早々、研究室の皆さんから韓国の宮廷料理店でもてなしていただいく.どれも美味しかったのだが、唯一衝撃的なお味だったのがホンオフェというエイを発酵させた刺身で、口に近づけるだけでアンモニアが目にしみて涙が出る.そして口に含むとお口の中が公衆便所になってしまうミラクルな食べ物だった.現地の学生も敬遠していたため,日本のくさや的な存在なのだろう.
 
教授だけ箸がすすんでいた.歓迎を受けたのち,大学の標本収蔵庫を見学させていただく.ツノハナムグリやカブリモドキなど大陸と関連の深そうな種も展示されていたが,日本と共通する種のほうがはるかに多い印象だ.用意していただいた宿が
ラブホテルチックで驚いたが明日以降の採集のため早めに就寝した.
 
 翌日から韓国南部の諸島へ車で移動、同行していただいたのは博士課程のチャンジュンさんとポスドクのチェさん2名である.K-Popを聞きながら,時には踊りながら目的地へ.午前中は水田調査を行い三田先生のカマバチ調査のお手伝いをする.このあたりは干潟が発達し潟の生物が特産のようで,お昼に干潟料理を味わった.メニューは基本的に赤貝チックな貝を中心としたもので炒め物やスープ、チジミなどすべて貝づくしであった.
 
 翌日、念願の海岸での調査.アマモはあるのだがハマベゾウムシはいない.他の海浜性昆虫もいない.つまらない.日本にくらべ砂浜が少なく砂利の浜が多いようだ.また,よい海岸だとしても観光地化され護岸工事や海岸清掃がなされダメダメなのである.なおかつ水着ギャルがいない.唯一韓国の砂浜らしさを感じたのは浜辺に打ち上げられたトウガラシだけであった.
 
 翌日も砂浜へ案内していただくが,ヒョウタンゾウ,ヒョウタンゴミは採れるものの結局ハマベゾウは採れなかった.その夜,気落ちしていた僕を元気づけるためか,以前から食べたいと懇願していた犬料理のお店に連れて行っていただいた.はたしてどのような形になって犬は出てくるのかワクワクしながら出来上がりを待つ.犬も楽しみなのだが,もう1つ食事の度に楽しみなことがある.それはトウガラシだ.韓国の飯屋では必ずと言っていいほど生の青トウガラシが付け合わせで出てくるのだが,見た目は一緒でも店ごとにトウガラシの辛さにバリエーションがあり,全く辛くないところもあれば猛烈に辛く,しばらく喋れないようなところもある.
 
 トウガラシの多様性が面白く毎度かじっては悶え苦しんでいると,それを面白く思ったチャンジュンさんが以降、出てきたトウガラシを全て「全部、工藤のね!」と僕に勧めるようになった.完全に悪ノリである.韓国人男性はやさしいと聞いていたのに!ドSではないか!さて,そうこうしているうちにお待ちかねの犬料理が完成したようだ.
 
 犬はスープになっていた.香りはスパイシーで山椒かなにかで獣臭さを消しているようだ.肝心の肉は固いが噛めば噛む程味が出る.そして脂身は少なく味もしつこくなく淡白であるが,独特のクセが少しある.念願だったせいもあるのか,とても美味しくいただけた.チェさん曰く「犬を食べると Something strong !」だそうだ.主に夏バテのときに食べるらしく日本のスッポンと同様のニッチを占めるのだろう.ごちそうさまでした.
          
 みなさんは,目的のものは採れず,食べてばっかりの採集だと思われただろうが,
私にとっては全くその通りだったかもしれない.来年,国際昆虫学会議 in テグが開催される.リベンジはそのときだ.

                                                   M1 工藤 雄太



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