※この日記は虫屋的な視点から書かれています。


 筆者にとって二回目となるベトナム調査。
以前同行したのは2010年の7月後半、約半年ぶりのベトナムである。現地は乾季に入っており、
前回とは全く違った昆虫が見られる事だろう。出発前から浮足立っている自分がいた。

  今回のベトナム調査のメンバー
 小島先生(ゾウムシ)、三田先生(カマバチ)
 常盤(コガネ)、吉澤(ハエ)、沢田(カミキリ)←筆者

 →小島さん、三田さん、常盤、吉澤、沢田
  2.11
 出発日、生憎の雪に見舞われる。ベトナムの気候を想定し薄着で行ったのが裏目に出てしまい、少し後悔。
空港では中華料理を食べたのだが、これが予想以上にうまい。特にパクチ―のサラダが美味であった。


 そして機体に乗り込む直前、「
さわだひかるさ~ん、搭乗口へお越しくださ~い」と呼び出される。
ライトトラップ用バッテリーの詳細が分かず、積みこめないと言われ、口論に…。離陸時間直前で結局OKが出た。さっさと調べろよ(怒)。

 現地時間の1時頃、空港に到着。今回お世話になる伴さん似のTrienさんが出迎えてくれた。なんでも、日本人向けのガイドを目指しているらしく、
とても“
流暢”な日本語だ。その後、宿に向かい明日からの採集に備え、ベッドに横になる。

 
 2.12
 朝食にフォーを食べる。この店は牛スジが具に入っていて美味い。一緒に出てきたサラダはどう見ても野草であった。
お腹を壊しかねないので少しだけ頂く・・・草原の味がした。常盤はそんなことお構いなしにバリバリ食べていたのだが。
 朝食後、車で水田に移動する。三田さんの目的であるカマバチを採集するためだ。今回の調査では前半に水田を巡り、
後半に標高を上げながら採集していく予定である。やはり都市部の通勤バイクラッシュは凄まじいの一言。
挨拶代りにクラクションを鳴らすので耳がおかしくなってくる。そんなバイクの群れに懐かしさを覚えるのであった。


 1時間程走ると、辺りは農村地帯に。高い山などはほとんどなく、地平線まで田んぼが広がっている。三田さんが良さげな環境を見つけ、
採集ポイントが決定した。人家が多く、生垣などを掬うとヘリカメムシやハムシ類が入る。黒くて大きなクマバチが竹筒に巣を作っていたので、
待ち構えてゲット。田んぼの畦に生えるヒルガオ科の植物には奇妙なゾウムシが付いており、小島さん曰く珍しいアリモドキゾウムシらしい。
 他にもホテイアオイからは、移入種の水生ゾウムシが見られた。また、生垣の剪定後と思われる枝からSybra属のカミキリが2頭得られた。
東南アジアに広く分布する種だろう。ハエとコガネの姿は乏しく、吉澤と常盤は暇そうだった。

  
バナナの腐った茎からはオサゾウムシが。         Sybra属のカミキリ                  ヒョウモンカマキリの一種

 昼食は農村近くの料理屋で、ゴーヤの肉巻きが入ったスープと魚介類のサラダ、川魚(ラスボラとドジョウだろうか)の煮付けが出てきた。
昼間からビールを飲むのは鉄則なのだが、海外で飲むビールほどうまいものはないと思う。



 午後は大きな川の近くの採集地に。正午から午後にかけてが一番熱いらしく、その時間帯は日陰で休めとTrienさんに言われるが、
フィールドに出たら日が暮れるまで闘い(採集)続けるのが虫屋たるもの!!制止を振り切り採集を開始する。
 エビの養殖場が近くにあり、周辺は休耕田の様な環境であった。
 ウンカ、ヨコバイが多く、トンボも多種が生息していたが、甲虫は少なく、常盤がコインサイズのオオテントウを捕っていた位だった。

 水田をスウィーピングしていると真っ黒なカマバチが入ったので嬉しかった。(心の中で珍品だったらいいなとつぶやく)
三田さんが戻ってきたのでカマバチを見せると、同じものを20頭位捕ったらしい。やはりプロには勝てません。
ここはかなりの良ポイントらしく(カマバチ的な意味で)また訪れる事にになりそうだ。
 
 ここの水田環境には魚が多かったので、
掬ってみました。
バンブルビー・ゴビーと呼ばれるハゼや、グラミーの仲間、小型のツメガエルが確認できた。日本の熱帯魚屋でも見る顔ぶれだ。
他にもピグミーグラミーやラスボラが得られたが、残念ながら水生昆虫の姿は無かった。


 夕食はホーチミン市でも有名だというお店に。有名と言うだけあってお客さんは非常に多く、料理も非常に美味であった。
 しかし、・・・・・・量が多すぎます(泣)
 

  
2.13
 朝食はまたフォーである。サッパリしているので飽きがこない。
本日向かうポイントは、昨日よりも民家が密集している地域である。一時間余りで到着し、採集の準備をしていると子供たちが自然に寄ってくる。
子供たちに昆虫を見せたのだが、興味が無いのかノーリアクションであった。(子供たちに虫を捕ってこさせようと企んでいたのだが・・・)
 水田の畔に生えるヒルガオ科の植物に甲虫が多く、カメノコハムシやアリモドキが特に多かった。
  
 民家を囲うようにして植えられている広葉樹(防風林であろうか?)の幹を見てみると、ボクトウガの幼虫が食い入った痕を多数発見する。
樹皮を剥いでみるとおぞましい量の幼虫が姿を現し、その蠢くボクトウガの中に
なんとネブトクワガタが!
ピンセットで慎重に取り出すと、チェリフェルネブトであろう大型の♂が出てきた。
やったね!
  
 樹液でぐずぐずになった根元付近や周辺の朽木にもいて、合計で20頭程得ることができた。
カミキリは枯れた蔓性の植物に集中しており、10種程を得ることができた。

 一番大きい個体を記念撮影。

 午後、2キロ程離れた水田に向かう。採集開始早々川に落ち、小島先生に「
人生いろいろやね。」と言われる。
川と水田の境が分からず、再び落ちる。なんで俺だけ…しかも川から這い上がるときに
イラガに刺される。
 今までにも色々な昆虫に刺されたが、この痛みは私の記憶の範疇を完全に超えていた。一帯に
ツムギアリの巣があり、
巣ごと掬ってしまう悪夢が5、6回ほど起きた。

 しかし、環境的には非常良く、捕れる虫の種類も豊富であった。
昆虫以外にもスキンクの一種と思われる
トカゲも見られた。日本でいうところのキシノウエトカゲにそっくり。
 カマバチも多く、私も10個体程捕ることが出来た。コガネムシがいないのは相変わらずであったが…。

       スウィーピング中の常盤               スキンクの一種                  非常に攻撃的なツムギアリ

  2.14
 いつも通りフォーで一日が始まる。昨日浸水した長靴が気になっていたが、無事に乾いているようだ。
今日の一カ所目は2.12の午後に行った場所で、三田さんが「素晴らしい」と言っていたポイント。道案内は全てTrienさんに任せていたのだが、到着したのは別の村…ちなみにTrienさんは英語が全く解らないので、日本語でゆっくり話さないと伝わらない。この頃からトキワが
通訳係になりはじめる。
30分後、ようやく目的地へ着いた。時間は既に10時をまわっており、準備を早々と済ませ採集に取り掛かる。
 
 (写真右、スターフルーツを食す)
 先日と違う方向に歩いて行くと堆肥にするための牛糞が積んであるのを発見。巨大なエンマムシやガムシの仲間が歩き回っていたが、
糞虫の姿は無かった。周辺の環境は水田の中にポツンと民家がある感じで、その民家の周囲に様々な植物が植えられている。
赤いObereaや大型のカメノコハムシ、例のアリモドキゾウムシも得られ、蔓性の植物から一叩きで20頭ものノコギリカメムシが落ちてきた時は驚いた。
 
 三田さんも相当数のカマバチが捕れたらしく、予定より早く山間部へ行けるらしい。
ヨッシーはずっと「ヤドリバエがいねぇ…」と言っていたので、山へ行けることを聞いて興奮していた。

 昼、日本人旅行客が沢山いる店へ。象耳魚というティラピアに似た魚の唐揚げが美味かった。この地域特産の魚らしい。
川に面したウッドデッキで食事をしたのだが、川を覗くとテッポウウオ(アーチャーフィッシュ)や淡水サヨリがいて、

隠れ淡水魚マニアの私を興奮させた。

 時折、積荷を運んでいる船舶が横切るのも楽しかった。

       “象耳魚”に感動                 船が行き交う。様々な荷物を積んでいる         テッポウウオ

 食後は果樹園があるという中州に行く。完全に観光客向けの果樹園で、虫的には不毛の一言。
ジャックフルーツを食べれたのと、ガイドの女の子が可愛かったので、まあ良しとしよう。小島さんはずっとその娘と戯れていた。
カミキリは枯れ枝に数個体居たが、面白い種ではなかった。
    

 その後、本来目的地としていた水田へ向かう。
 甲虫的には水田よりも周辺の林の方が良く、多数のカミキリが採集できた。三重県に定着している種と似ている
Sagraも得られた。
水田脇では初見、オレンジのハチが飛んでいるものと思い見逃していた昆虫が居たのだが、ネットインして見るとObereaであった。
よく観察してみると、このObereaは水中から生えているタデ科の植物を後食しているようで、注意深く探した結果、かなりの個体がいることが判った。
個人的に好きなグループなので嬉しい。それに日本のObereaで、タデ科を後食する種はいないのでとても興味深い。
 小島さんの希望で帰りにドリアンを買って帰る。部屋がドリアン臭でいっぱいになったが癖になる味でとても美味しかった。
 
      Oberea(リンゴカミキリの一種)                      Iproca属に似ているが・・・
  2.15
 今日は小島さんのご要望で海岸へ向かう。フェリーに車ごと乗り込み、対岸の町まで移動した。
そこからは採集スタイルに着替え、小型のボートで採集地へ。ここまではどこぞの探検隊のようで面白かったのだが、
いざ目的地に着いてみると我々が想像していた「海岸」の面影はなく、アカシア等が人工的に植えられた島だった。
とりあえず採集はして見たが、やはり昆虫そのものの数が少なく、期待していた海岸性昆虫の姿など無かった。
 
 しかも島の中央付近に民家があり、その近くに土場があったことを帰り際に知ったのだった。
大きなムツボシタマムシが来ていたのだが、一瞬で飛び去ってしまう。もっと早くこの土場の存在に気付いていれば…残念である。
トキワも黄色いアシナガゾウムシの美麗種を捕まえるも、小島さんに見せた直後に逃げられ、落胆していた。
見たこと無い種類やったね」と小島さんにとどめを刺されていた。
 
  見るからに不毛な島であった。

 午後、マングローブ林に連れてってくれると言うことで、案内された場所はマングローブ林と言うよりは「水没林」という感じでろくに進入が出来ず、
仕方ないので林縁で採集。 これといって面白いものも捕れずにこの日は終わる。

 Trienさんに採集地の選定を全て任せると大変なことになる
ので、これからはgoogleマップで良い環境を探しつつポイントを決めることに。明日からは森へ移動するので楽しみだ。
 
  2.16
 今日はホーチミン最後の日、北部の町ダラットへ向かう。ほぼ一日が移動日となったが、ダラットの手前の山村で少しだけ採集をする。
ランブータンとカシューナッツの農園のようで、沢山の花を咲かせていた。掬ってみるとハナムグリとマメコガネが入ったが、
ハナカミキリ等は得られなかった。やはりシイやカシの花でなければダメなようだ。この日の昼も川魚の煮付けとビールが主流になってきた。

午後はほぼ移動だけで終わり、ダラット入りの前に心霊スポットに寄ったが特に何も起こらず、Trienさんだけが異様にテンションが高かった。
 
 夕食後、イカすヘルメットを発見したので即購入!!
 ライダーの多いベトナムならではであるが、何故テントウムシなのか・・・
子供がかぶったら可愛いのであろうが、我々が身に付けたその姿は
ただキモいだけであった。



 終わりに
  マレーシアの採集記と並行して書いているので次の更新は何時になることやら(笑)
 偏った内容ですが最後まで読んでくださりありがとうございます。
                                             沢田 光

                        
つづく



ベトナム採集記

Part1