飛島採集記

飛島・・・山形県唯一の離島。キャッチフレーズは「日本海の不思議アイランド」
「・・・行かん?」
唐突に小島先生からお誘いを受けたのが7月の初め。
最近では泊りがけの採集など、滅多に行く機会の無くなっていた私は、このお誘いに二つ返事で応じた。

今回のメンバーは、小島家(3人)に、同期の井ノ口、4年の大橋、そして私の6人と決まった。

日程は7/26-30。
後に8/1-5に御嶽山へ行く事が決まり、直後のオープンキャンパスも相俟って、予想外の過密スケジュールになった。
まだ見ぬ地で、果たしてどのような成果を上げる事が出来るのであろうか・・・


初日
行きの新幹線から、なおちゃん(小島先生の娘さん)は元気いっぱい!
こちらが少々疲れてしまった。

爆睡中の大橋大先生

5時間ほどかけて山形の坂田港へ行き、そこからジェットフォイルで1時間半弱。
目的の飛島は、とても小さな島だった。

上陸後すぐにトラップ類を設置がてら、宿の周辺をざっと下見した。
フトキバスナハラゴミムシの有名産地であること以外、事前情報をほとんど持っていなかったため、
とりあえずは闇雲に採集する、ということになった。

初日の成果は、コフキゾウムシ・ゴマダラカミキリ・アカスジカメムシ・ベッコウハゴロモが最普通種であることを確認した程度であった。
この4種は異様に多い。

             コフキゾウムシ                     アカスジカメムシ
自転車ならば、20分もあれば一周できるほどの小さな島。しかも調査期間は、丸3日以上もある。
明日に備え、早めに寝ることにした。


2日目
飛島をぐるりと取り囲む海岸は、そのほとんどが天然の磯と砂浜である。地図によると、漂着植物の群落などもあるらしい。
この日は海浜性昆虫を中心に狙うことにした。
ちなみに、海浜性甲虫は井ノ口の専門分野でもある。
初日に持ってくるところ、今回の力関係が表れたのかも知れない。

島の西岸には車が入れず、中央を貫く車道から逐一、海岸までの歩道を降りなければならない。
途中、スズメバチやイラガと闘いながら雑甲虫を中心に採集したが、数はそれほど多くはなく、特に目を惹く成果もなかった。

島の広範囲をクズとオオイタドリが覆っており、結果としてそれらをホストとするコフキゾウムシやイタドリハムシ、
ゴマダラカミキリなどが大発生しているようだ。
 
            イタドリハムシ                      ゴマダラカミキリ
イタドリハムシは若干、生息範囲が限定されている印象を受けた。

ススキの原っぱを抜けて、砂浜数カ所を攻める。
ヒョウタンゴミムシや、スナゴミムシダマシの仲間など、お馴染みの面々を得ることができた。

                    ヒョウタンゴミムシ
特にヒョウタンゴミムシについては、ほぼすべての砂浜で得られたが、個体数には大きな差が見られ興味深かった。
しかし、外海にありながら浜は非常に汚く、また広い海岸林も無いため、オオコブスジコガネやオオヒョウタンゴミムシなど、
いわゆる珍品は見つからなかった。
 
島で3軒しかない飲食店のうちの1軒で、“島のラーメン”を食べた。
塩味のスープにトビシマカンゾウの花が乗っていて美味しい。


午後からは別の浜を攻める。
ハマイブキボウフウの花が其処彼処に咲き乱れ、ハナノミやカミキリモドキ、マメゾウムシなどがたかっていた。
 
                    ハマイブキボウフウにたかる虫たち
崖斜面の花からは、大量のアカスジカメムシに交じり、アオカミキリが得られた。
 
                         アオカミキリ
農大での発生時期とは、大きくずれているようである。

ちなみに恥ずかしながら、自分にとってアオカミキリ初採集であった。

その後も海岸を中心に採集を続けたが、コレといったものは捕れず、島の内部での採集でも、フトキバの残骸を拾った程度で、
この日の調査を終えた。


3日目
早朝に島を自転車で一周した。
この島ではオサムシを見かけず、代わりにオオゴミムシやオオスナハラゴミムシなどの大型のゴミムシが闊歩しているようだ。
前日の早朝、同じように島を一周した先生から「フトキバいっぱいおったよ」との情報を得ていたが、
どうやらこういった“雑兵”の誤認だったようである、残念。

この日は島の多くの環境を回り、常緑樹林と海岸を中心に採集した。

午前中は島で2番目に高い柏木山に登ったが、標高はわずか58mで目的のカシワもそれほど多くはなく、期待外れとなった。
途中、大きなミヤマクワガタの大顎を拾ったので、時期にはヤナギの林が楽しいかも知れない。

そこから前日に行かなかったゴトロ浜へ下り、海岸をなぞるように採集した。
 
海浜性の植物をホストとするゾウムシなどが捕れたが、ハンミョウなどは見られなかった。
また、好海岸性のツチバチも多かったが、砂の粒子が粗くハナダカバチなどは見られなかった。

そこから先は賽の河原と呼ばれる場所で、採集は控えた。
もっとも、本当に石ばかりで昆虫の気配はほとんどなかった。

昼間は2軒目のラーメン屋で“飛びっ子ラーメン”を食べた。飛魚出汁(あごだし)の効いたしょうゆ味で、これまた美味。

午後からはシイやタブの林で採集したが、ゾウムシやハムシなどは総じて種数・個体数とも多くなく、
地表性甲虫についても多様性は低そうであった。
島で一番高い高森山に登頂したが海抜が69mしかないので、下手をすると厚木キャンパスへ来る方が大変かも知れない。
頂上には灯台があり、周囲のカエデからツツゾウムシがたくさん得られた。夜中に飛来するのかも知れない。

夕食後はライトトラップ。
ミヤマクワガタの残党を狙い、ヤナギのすぐ近くに場所を決めた。

結果は小型のガとニイニイゼミばかりで、大型の昆虫はスズメガ以外、ほとんど飛来しなかった。
また、お馴染みのアメバチもほとんど来ず、昼間の採集結果から見ても、この島には大型の昆虫が少なく、
それをホストとする寄生蜂や有剣類も少ないのかも知れない。
セスジゲンゴロウ類とアシナガオニゾウムシを採集した。

風が強く時たま小雨も降り、コンディションとしてはいまいちで、同行したなおちゃんも寝る時間だったため、終了。
帰りは歩いてフトキバを狙ったが、アオゴミムシ類数種と、先に挙げた大型ゴミムシ、側溝でセスジゲンゴロウの追加を得るに留まった。

オサゴミやハチが好きな自分は少々退屈したが、先生や大橋には実りある1日となったようだった。


4日目
小島家は先生1人を島に残し、先に2人戻られることになっていた。
なおちゃんは、2日目に私が捕ったシマヘビの子どもを連れ、嬉しそうに帰って行った。

この日はのメインイベントはトラップ回収。
ぱっと見た感じでは、マレーズ、サンケイ、FITとも個体数が少ない。実は調査中、大抵が曇り時々小雨で、
あまり良い天気ではなかったためだろうか。
特にFITは燦々たる結果で、昆虫が1個体も入っていないものもあった。

唯一、ピットフォールはどれにもたくさん入っていたが、ほとんどがオオヒラタシデムシで、大半をその場で捨てた。

“飛びっ子ラーメン”で腹を満たし、宿周辺で採集した。
謎の石塁という史跡の頂上では、アオスジアゲハやクマバチ、ハキリバチ類が乱舞し、ヤブガラシに訪花していた。
アオスジアゲハはこの島のパンフレットで紹介されるほど多く、タブから発生しているらしい。
 
ツリガネニンジンからは、コバンゾウムシがたくさん得られた。

翌日は帰るだけなので、ちょっと夜更かしして“初孫”を堪能した。



最終日
大きな台風によって、新潟を中心に大きな被害が出ていたらしいが、飛島は今回の旅で一番の朝日だった。
今日は本当に帰るだけなので、土産を物色し、サイクリングを楽しんで終了。

坂田港からのジェットフォイルから、たくさんの乗客が降り立った。
我々の行きの便には、両手の指で数えられるくらいしか乗っていなかったのだが、今回はざっと60-70人はいただろうか。

折り返しの便の乗客は、行きよりもさらに少なかった。

長いようで短かった5日間。
後ろ髪を惹かれる思いで、飛島を後にした。

・・・本当に真っ平ら(笑)



※※※後記※※※

今回の採集はファウナ調査の一環として行われたものです。
故に特に目玉も無く、欠伸の出るような採集記になってしまった事をここにお詫び申し上げます。
ただ個人的には、アオカミキリを初めて捕ったり、ソーティングしたらフトキバが1個体出てきたりと、とても楽しく実りある旅でした。

現在いくつかの分類群につきまして、初記録種を報告すべく短報を製作中です。
何か情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、お教えいただけましたら幸いです。



                                                             M1 村木朝陽