対馬採集記9月7~11日 

学部3年 庄井健太

私は今年の渋谷東急百貨展昆虫展示の準備をする中で、標本箱に収められていたツシマカブリモドキに心を奪われ、採集欲に駆られた。そこでまず同期の水落を誘って計画を立て、その後同じく同期の尾嶋も加わり、対馬への採集が実現した。

1日目

さっそく空港へ向かうが、東京はあいにくの雨。ここから数日間、関東地方は記録的な大雨を経験することになったらしいが、我々は対馬でのんびり昆虫採集だ。対馬に着くと、天気は良いが風が物凄く強い。開けた場所では、風が強くて虫網はうまく振れない。

我々はさっそく車を借りて宿へ向かうことにした。宿はなんと3LDKの貸切りだ。1人に1つ部屋があるなんてとても贅沢であるのに、なんと宿泊費はかなり安かった。そんな夢のような拠点を手に入れた我々は、事前情報を頼りに採集地へと向かう。20時頃に目的地Aへと移動途中、なにやら良さそうな街灯を発見し、運転手の私は路肩に車を止めた。そこは大きな街灯1つと自動販売機が並んでいた。何かいないか探し始めると、自動販売機の前でモゾモゾ動く黒い虫が。近寄って確認してみると、ツシマヒラタクワガタの雌であった。初日から欲しかった虫が採れてしまった。その後も周辺を捜すとノコギリクワガタやコクワガタなどが得られた。

街灯を後にして目的地Aへと向かう。着くなり早々と尾嶋がヒメカマキリを採集して喜んでいた。私は初めての遭遇だったので、タッパーに入れられたカマキリを観察して楽しんだ。奥へ進むと、少し開けた場所があったのでライトトラップをしてみた。だが、来るのは小型の蛾とコカマキリくらいで終わってしまった。

ライトトラップも終わり撤収する途中で、ツシマフトギスを発見した。

 


 正直自分が見ても他の似ているバッタ類と見分けがつかない(要は興味がない)ので、採集前から欲しいと言っていた水落に託す。
車に乗り帰宅する途中、またあの街灯に立ち寄った。すると道路の中程に潰れた瀕死のクワガタが落ちていた。拾ってみるとそれはキンオニクワガタの雌だった。待ち望んだ虫との出会いであったが、潰れたそいつをみると悲しみがこみ上げてきた。「もう少し早く来れば完品で採集できたのに!」と、何回つぶやいたことだろうか。しかし、キンオニクワガタの成虫がここにいると確信が持てたことは良かった。その後は、そのまま帰路についた。

2日目

この日は某山に登ってキンオニを追うことにした。目的地に着くと、割った跡のある倒木が落ちていた。手でも割れるほど柔らかかったので、少しつまんでみると中からコクワガタの幼虫や成虫が出てきた。この材から得られるのはコクワガタだけだろうと、見切りをつけて奥に進んでいく。すると我々の前方にハンミョウがたくさん現れた。

特に沢沿いになると個体数が増し、非常に美しい翅を広げて方々へ飛び去っていく。しかし肝心のキンオニ材が見つからない。さらに地面がぬかるんできて、長靴の私は平気であったが、他2人が大変そうだったので引き返すことにした。結局キンオニ材は見つけることが出来なかった。

続いて目的地Aに移動し、バナナトラップとベイトトラップを仕掛けた。私は、少ないがバナナトラップ2基、ベイト15個ほど仕掛けた。他のメンバーも同じくトラップを仕掛けていた。お昼は宿に帰ってご飯を食べ、夜の部へ備えることにした。18時、宿を出発し目的地Aに向かった。目的地Aでは昨日とは別の場所でライトトラップを行うことに。しかし風が強い所為か今回も芳しくなく、みんな思い思いに周辺の探索を始めた。すると、水落が何かを発見したようだ。行ってみると、彼の手にはツシマカブリモドキが握られていた。

ちゃんとここにもいるのか! と、火が付いた私はズンズンと歩き回りライトトラップそっちのけでツシマカブリモドキを探し始めた。そしてようやく林道を横切る個体を捕まえることに成功した。触って見ると何とも言えない匂いが漂う。しかし採集に成功して興奮している私にはもはや良い香りに感じられた。その後追加個体を狙ったが、それ以上見つけることは出来なかったので、ライトトラップを回収し目的地Aを後にした。因みに水落はこの時3個体採集していた(羨ましい!)。続いて車に乗り込み目的地Bに向かった。途中またあの街灯へ立ち寄る。するといくつかのクワガタのほかにムラサキシャチホコがいた。


 
 こいつは一見すると枯葉にしか見えないという面白い蛾である。

目的地Bの駐車場に着くと何やらスポーツカー風(素人目)の車が2台止まっている。こちらが駐車場に入るとエンジンをヴォンヴォンと鳴らして急発進し目の前で急停止して煽ってきた。その後5分ほど待ったが、どうやら我々をここに留まらせる気は無いようだ。しかも後ろからさらに2台の車が接近してきた。初心者ドライバーの私は完全にビビってしまい、仕方なく目的地Bをあとにした。後日分かったことだが、そこは対馬の走り屋が集うことで有名な場所だったらしい。さて。採集は出来ないし、煽られて傷心の私はもはや萎えてしまい、他の2人には悪いがこの日の採集は終いとなった。

3日目

昨日の鬱憤を晴らすため、私が一番欲しているキンオニクワガタを探しに行った。今回は新しく目的地Cに向かう。こちらはキンオニの採集でも有名な産地なようだ。

ここは、宿から車で2時間強もかかるので行くだけで結構疲れる。そして到着したのはいいのだが、登山道がどこにあるのかわからない。しばらく車を走らせ探すも、それらしいものは見つからず、仕方ないので歩いて入れそうな枯れ沢から登ってみることにした。

 

すると登ってすぐに偶然蹴り飛ばして崩れた材からキンオニの幼虫が出てきた。慌ててしゃがみ込み、材を慎重に割りながら追加個体を得る。まさかこんな簡単に見つけられるとは……。このスタートダッシュの成功に、他の2人も躍起になってキンオニを探し始めた。しかし、その後はなかなか良い材を見つけることが出来なかった。よく考えると、数日前対馬では50年に一度の大豪雨だった。もしかしたら山にあった材も流されてしまったのかもしれない。実際下流には木材が幾重にも積み重なった場所があった。1時間ほど経って新たなキンオニが入った材を発見。その材は、柔らかく土化した場所にキンオニ、堅い芯の部分にコクワが入っていた。それからはコクワガタの幼虫はたくさん見つかるものの、キンオニの追加は渋くなった。キンオニが入っていそうな材が無くなってきたので今日は撤退することに。帰りも2時間ほど掛かるので、夜に採集することを考えると早めに帰らなくてはいけないのがネックだ。帰る途中、シイタケを栽培している近くの土場でハラアカコブカミキリを水落が採集していた。

夕方、目的地Bに再挑戦しに向かう。前回は走り屋の所為で入れなかったので、今回は仕掛けるはずだったトラップを仕掛けに行った。この時はトラップを仕掛けるだけになった。夜の部は目的地Aに仕掛けたトラップの確認とライトトラップの再挑戦をする。今夜は連日の強い風が止み、ライトトラップは期待大。さて、さっそくベイトトラップを確認すると、お! 入ってる! ツシマカブリモドキ!

少ないトラップ数でも生息数が多いと入ってくれるようだ。しかし、いくつかのトラップにスズメバチが入っていたことには驚かされた。因みにツマアカスズメバチではなかったので、トラップから出してあげることに。続いてバナナトラップにはツシマヒラタの雌が来ていた。自分で作ったトラップに虫が来てくれると嬉しいものである。そしてライトトラップを設置する。すると10分も経たずして大型の蛾がたくさん飛んできた。今日はライトトラップが調子よさそうだ! と思って近くに座り込み眺めていたら、ライトの後方から何かが飛んできた。拾い上げるとそれはヒメカマキリだった。よく見るオオカマキリやコカマキリに比べると造形は細かくカッコイイ! 私は初採集だったが、このヒメカマキリはカマキリ屋の尾嶋に献上することにした。なぜなら今回の採集でいくつかクワガタを貰っているからだ。それからも、シンジュサンや多数のスズメガは飛んで来るものの、大型甲虫は結局飛んで来ることはなかった。その後初日に見つけたあの街灯を見るが、残念ながら特に何も得られず、3日目の採集はここで終わることに。ツシマカブリモドキ、キンオニなど狙った虫は得られたので満足だった。

4日目

今日は午前中から某山に登り、ツシマセダカコブヤハズカミキリを狙う。原生林を抜け、さらにその先の植林地を越えると採集ポイントだ。ポイントには良さそうな落ち枝がたくさんあり、試しに叩いてみるとヒナカマキリが落ちてきた。その後も葉の付いた枝を叩いていくが、落ちてくるのはヒナカマキリばかりであった。おかしい……やり方は間違って無いはずなのに……。結局ツシマセダカコブヤハズカミキリを見つけることは出来なかった。午後からは目的地Bに行きトラップの回収とライトトラップの設置に行く。ベイトトラップには数匹のツシマカブリモドキが来ていたり、大量のスズメバチが引っ掛かったりしていた。しかし仕掛ける日数が足りなかったのか、バナナトラップには何も来ていなかった。この時点で時間は18時、ライトトラップをするにはまだまだ時間があるので林内を探索した。するとベイト用に使ったであろうプラスチックコップやバナナトラップの残骸がたくさん捨てられているのを発見した。これはひどい……。この時間を利用して我々はごみを回収することに。トラップを仕掛ける時は必ず回収を忘れずに行ってほしいものだ。

さて、空も暗くなりライトトラップを開始した。すると早速トラップ周りに何やら黒い虫が低空飛行で飛んでいる。手で叩き落として確認すると、それは待ちに待ったヒメダイコクコガネだった!

  

事前情報では街灯にたくさん飛んでくるとのことだったが、実際確認出来たのは最終日前日であった。この目的地Bはヒメダイコクの生息地として有名で、夜になると芝生の上に現れるとの事だった。その後も他のメンバーとともに芝生の上を低空飛行する個体や歩行個体を採集していった。また、ライトトラップの方は今採集で初となるツシマヒラタの雄が飛来、さらに雌も2頭飛んできた。他にも小甲虫が飛んできており、甲虫好きからすれば4日間で一番良いライトトラップとなった。続いてライトトラップを撤収し、目的地Aにトラップの回収に向かう。しかしここでは特に昆虫は採集出来ず、トラップの回収のみとなった。ここで4日目の採集も終わりだ。実質5日目は飛行機に乗るだけなので、採集できるのは4日目までだ。


・5日目

お世話になった宿を整理し、帰り支度をした。最後に宿の女将さんから「虫屋さんですよね? またいらしてくださいね」と言われた。どうやらここに泊まりに来る虫屋は多いらしい。そもそも対馬で夜に毎日出かけるような旅行者は虫屋くらいだろう、そりゃバレるか。

今回の対馬採集は採集したかった虫のほとんどを採集することが出来たので、とても満足な遠征であった。自分の唐突な採集欲に付き合ってくれた二人には感謝している。またこのような楽しい採集遠征に行きたいものだ。


※本採集記は、OB会ニュースに掲載した対馬採集記の、文字数の関係上掲載しきれなかった部分を含めた採集記となっております。