トカラ・屋久島採集記



「Dipteraの香りがしますよ~」

相良のお気に入りのセリフである。良い環境を見つけた知らせだ。


4月25日から5月3日まで、小島先生と相良、駒形の三人で臨んだトカラ遠征は、幸先の良いスタートを切ったように思えた。初日、船が出る夜までの間、鹿児島市にて採集を行なった。全く期待はしていなかったのだが、それなりに良い環境である。時期にしてはなかなかのヤドリバエが採れた。イエバエの相良はそこまででもなかったようだが、ここでそれなりに採れたのだから、トカラではどんなハエが採れるのか、期待に胸を踊らせていた。採集がひと段落し、荷物を預けにフェリー乗り場へ向かうと、そこに信じられない張り紙があった。

「悪天候のため、フェリーとしまは明日以降に運休になりました」文字通り青天の霹靂である。この採集日和に悪天候とはなにごとか。しばし混乱したのち、今日は鹿児島市に宿泊するしかないということになった。そして小島さんの一言「明日は、屋久島に行こうか」


こうして急遽向かうことになった屋久島では、思いがけず非常に良い成果が上がった。



右写真は一日のシメである標本作り。日を追うごとに苦行になってくる。


ヤドリバエは種数にして14種以上、初顔合わせの種が多かった。海岸でもヤドリバエが採れることは今回学んだことの一つである。相良も、貴重なカトリバエがいたらしく、海岸で暴れまわっていた。島民にとってハエを採る人は珍しいようで、好奇の目で見られた。「私はヤドリバエ好きで、イエバエの可愛さが理解し難い」などと自己弁護をしても彼らにはそれ自体どうでも良いことらしかった。

28日、ようやくトカラ列島・諏訪之瀬島に渡った。



植物相は単調で、イネ科植物が圧倒的に多く、家畜動物が放し飼いになっていた。植物に間接的に依存しているヤドリバエはあまり期待できそうにない。ここは衛生害虫を含むイエバエのフィールドである。相良は終始機嫌よく、ふと見るとヤギとヤギ語で会話していた。滞在期間が非常に短くなってしまったため、あまり思い出のないまま去ることになった。翌日、平島にむかった。 平島は二泊三日で、ゆったりと採集ができた。宿の予約が取れずキャンプ生活を送る予定だったため、大量の食糧と生活用品を持ってきたのに、逆ドタキャンで当日宿に泊まれてしまった。食糧はほぼそのまま送り返すことになったが、美味しい魚が食べられて本当によかった。



右の子が宿のお孫さん。精神年齢が近いのか、仲良くなった。


初日、幼稚園に通う宿のお孫さんが、海岸まで案内してくれた。親切にもいろいろな所(お化け屋敷など)を紹介してくれたおかげで、海岸では20分も採集できた。二日目、島の子供達にヤドリバエについて教えたら、みんな興味を持ってくれて、後で集落に寄ったときにたくさんのサンプルを持って来てくれた。彼らの虫の知識は非常に多く正確である。野生のヤギを捕まえ、漁をして生活する島の暮らしは、とても自然環境に密接である。液晶画面に釘で打たれた都会の子供より、ずっと多くの事に気付かざるを得ないのかもしれない。



フェリーがたつとき、島の方々はこぞって見送りに来て、手を振ってくれる。フェリーとしまの操縦室を見学できた事は良い思い出である。船長自ら案内してくださった。


今回の遠征では非常に多くのことを学んだ。これも多くの人々のお世話になって経験できたことである。トカラ遠征をご一緒させていただきました小島さん、私より貴重なヤドリバエをとってきてくれた相良君、そして各島でお世話になった宿の方々、島民の皆様、虫をとってくれた子供達に感謝申し上げます。
しかし、サンプル集めはまだ終わっていない。私の部屋では、トカラから採集したチョウの幼虫から今もヤドリバエのウジが出てきている。
現在進行形で、Dipteraの香りがしますよ~!




                                                                         学部3年 駒形

※今回の採集は十島村の許可を頂いて行いました。