西表採集記その2

学部4年 真嶋 豪

 西表島から帰り2か月後。筆者は再び西表へと降り立った。もちろん卒論のためであって決して採集のためではない。前回と違い今回は一人きりの採集である。卒論のため採集している時間は少なく貧果ではあるが、8/22から8/30の9日間のぼっち旅ををダイジェストでお送りする。

 8月22日の朝9時、2か月振りに西表の地を踏む。前日夜に石垣空港に到着していたので、今回は朝早くに西表入りすることが出来た。

 さっそくレンタカーを借りて島を半周してみる。前回からどれだけ西表が変わったかを見るためだ。

 海岸林ではヨコスジサビカミキリやササラクチカクシゾウムシを採集、宿近くの林道ではヒメシリアゲコバチらしきハチを採集。中々に順調な出だしだと思いながらスイープしていると、なにやらジュラルミンロッドの感触が急におかしくなった。

 …………どうやら継ぎ目が壊れてしまったようだ。前回のビーティングネットに続いて今回も初日から採集道具を破壊してしまうというポカをやらかす。

 夜、ライトには大量のツチカメムシとフチトリアツバコガネが飛来した。

 

前回相良君がヒトデを見つけていた浜               ヤエヤマムネマダラが材から顔を覗かせていた


 2日目。前日深夜から朝方まで卒論のため車を走らせ、その後宿で眠りについたため起きたのは正午近く。そこからまた卒論のため車を走らせたため昼間はほとんど採集する時間がとれなかった。前回よりもどこか肌寒く、ライトトラップもあまりふるわない。ライトトラップ中、ドクガにやられたのか背中に激痛がはしり、夜の森の中で悶絶することになる。


 3日目は前回行かなかった林道に入ってみた。ここでは普通種とはいえリュウキュウムラサキが採集でき、ミーハーな筆者はおおいに喜んだ。しかしここまでの3日間、歓声を上げるような場面が1つもない。ライトトラップではフタホシツマジロカメムシが飛来したがそれ以外は今日も低調だった。ライト中ドクガにやられ両手に激痛がはしる。悶絶する。

 4日目。ここまでほとんど面白いことが起きていない。前回はあれだけ採集としても観光としても面白かったにも関わらずなぜだ、と思いながら目につくチョウ類を採集する。前回は鈴木君にだいたいのチョウを渡してしまっていたためヤエヤマイチモンジなどでも喜べた。夜、ドクガにやられ背中に激痛。悶絶。

 激痛を我慢しながらライトに飛んできたカミキリがいたので
「またヒメカミキリの仲間だろう……」
 と思いながら狙いすまして網を振りぬく。あまり期待せず網の底を覗くと、ムネスジウスバカミキリであった。4日目でようやく小さめの歓声をあげられることができた。


ムネスジウスバカミキリ

 ライトトラップを終え、卒論のため車を走らせていると路上に何か大きな物が落ちている。時刻はすでに0時を過ぎ、西表島滞在5日目に入っていた。バタバタと翅をはばたかせているが全く飛び立つ気配のないそれの答えはすぐに思い至った。

ヨナグニサン

 前翅が破れてしまっていて飛べそうにないのでこの個体は木の枝にとまらせて林の中に避難させた。

 一度は見てみたかった天然記念物を見ることが出来た感動冷めやらぬまま車を走らせていると、センターラインあたりに何か大きな物が落ちていた。ヨナクニサンとは違う、より大きく質量のある物体だ。

「黒っぽく見えたし、カラスか何かが轢かれたのだろう……」

 ライトを向けて確かめると、それはカラスなどではなかった。

 イリオモテヤマネコ

 既に死亡しているものと思ったため、卒論用として写真を撮ったのが上記の写真である(筆者の卒業論文は昆虫を中心とした野生動物の交通事故についてだった)。が、この写真のフラッシュでヤマネコはガバッと顔をあげた。保護すべきだと頭では理解できていても触ってもいいものか分からず、そっと手を伸ばしたところヤマネコはすばやく起き上がり逃げ出した。だが体のどこかがおかしいのか、まっすぐに進まずふらふらと曲がって行ってしまうのでこれはいけないとつかまえ、抱きかかえる。
 抱きかかえたはいいもののどうしたらいいものかとパニックになったが、近くのホテルの方の協力もあり、無事西表野生生物保護センターに保護された。(この個体は2014年9/3に野生復帰した)

 保護されていくのを見届けた後、卒論の調査を再開してヨナクニサンをまた発見。その晩は興奮しすぎてよく寝られず翌朝寝不足となった。結果5日目の採集はほとんど行えていない。

 

暴れるヤマネコを抱えたためひっかかれ、糞もされた



 6日目もチョウ類ばかりを採集。林道沿いに咲いていた花でコガタスズメバチやメバエの一種,クロテンシロチョウなどを採集できたことくらいしか書くことはなかった。ここまで夜間のライトトラップは前回の時と同じ場所で行っていたが、あまりにも成果が伴わないのでガラリと場所を変えてみた。しかし結局成果はあまり変わらず、新顔はアリタクロコガネ程度だった。

クロテンシロチョウ


 7日目。ここにきて土砂降りの雨に降られ、昼間はほぼ採集にならず。今回の西表島は夜間断水していたほど雨が降らず、それも一因となって昆虫が少ないのかと考えていたのでせめてこの雨が呼び水になってくれれば……とライトトラップにはかない望みをかけた。だが、オオイクビカマキリモドキやコンボウヒゲブトハネカクシを採集したのみで終了した。


 採集できる日は8日目のこの日が最後だったが、最初から諦めムードであり、西表まで来て何も観光しないのはもったいないと観光へ。島中心部へは前回行ったので、海辺へと向かった。行った先は星砂の浜。

 海は美しく、タイドプールにいる魚介類もカラフルなものばかりで目を喜ばせた。が、今は夏である。そしてここは観光地である。周囲には水着の観光客が大勢おり、その中で長袖長ズボンに長靴姿というのはどうしても浮くので早々に退散した。

星砂の浜


 まともな採集成果をあげられないままお土産を買い、夕方の便で西表を後にする。翌日朝には石垣空港を発ち、羽田空港についたときには不思議と満足感があった。


 貧果ではあったが、昆虫が採集できなくとも、ただ行くだけで楽しめる島、西表。その魅力に囚われて、2014年3度目の来島をすることになるとはまだこの時点では予想できていなかった。


 その3