坂田 洋一 教授
研究テーマ
陸上植物のABAシグナリングと環境応答
農作物の育種改良で、世界の食料危機を克服する
地球温暖化や環境破壊が進み、自然界の生態系は大きく変わりつつあります。この変化は農業にも影響し、温帯地域では平均気温が1℃上がるごとに、農産物の生産量は3〜5%減少すると予測されています。
一方、日本では少子化が問題になっていますが、世界的に見れば、人口はまだ増加中です。2050年ごろには世界人口が90億人を突破するといわれており、これは現在の人口の約1.5倍に相当します。
この世界人口の増加に合わせて食料となる米や小麦、野菜等の収穫量を、今後40年間で7割増やしていく必要がありますが、農地利用できる土地はあまり残されていません。このままでは将来的に世界的な食料不足が訪れるのは避けられません。
ですが、もしも「天候の変化に強い」「砂漠でも栽培できる」農作物があったらどうでしょうか。きっと、地球規模の食糧危機を救う大きな突破口になるはずです。
植物が環境に対応するメカニズムを遺伝子によって解き明かす
では、そんな農作物を開発するには、どうしたらよいでしょうか。まずは、植物が環境に対して、どのようなしくみで応答しているのかを調べる必要があります。
人間なら、炎天下にいてのどが渇けば水を飲む場所を探しに行くことができます。あるいは、日陰に移動して涼むこともできます。しかし、大地に根ざした植物は移動することはできず、その場で環境の変化に対応していかなければなりません。
生きていくために、植物はさまざまな機能を備えています。人間でいうとのどが渇いた場合、植物は葉の気孔をすっと閉じて、水分が内部から逃げないようにします。環境の変化を瞬時に察知し、内部の組織や代謝を大きく変動させているのです。このようなメカニズムを遺伝子レベルで解明するのが植物遺伝子工学研究室の使命です。
遺伝子の研究から、農作物の育種改良へ発展させる
研究室では、植物のさまざまな遺伝子を取り出して分析し、強化すべき機能に関連する遺伝子を突き止めます。そして、外見からはわからない内部のダイナミックな動きを想像し、仮説を立てて研究で証明します。
遺伝子の分析には、細胞内を詳細に観察できる「共焦点レーザー顕微鏡」や、高速でDNAが解読できる「次世代シーケンサー」などを使用します。ライブイメージング(可視化)技術やゲノム編集技術などを学び、遺伝子のチカラを解き明かしていきます。
さらに、実際に新たな育種改良技術を用いた農作物の分子育種を試みる「植物分子育種学研究室」とも連携し、共同研究に発展させます。ふたつの研究成果をリンクさせれば、研究の領域は飛躍的に広がるでしょう。