稲泉 博己 教授
教授×学生対談
稲泉 博己 教授 × 脇田 麻友子 さん(国際バイオビジネス学専攻 博士前期課程2年)
小学校の出前授業などの実践的な「学び体験」を用意
稲泉:この研究室では、食と農に関する実体験から生まれる効能に着目し、「食農と学び」の可能性を探求することをめざしています。
研究はまず、自然豊かな里山で農業を体験し、農作業の魅力や農家の人の思いを感じることから始めます。そして、その体験を活かし、小中学校などで農業の大切さを伝えるための「食農教育(食育・農業教育)」を試みます。
そのために、数々の「学び体験」を用意しています。例えば、NPO法人と連携した食育イベント。世田谷区にある小学校で、「食べ物の大切さ」や「野菜をつくる農業が身近にあること」を伝えるための出前授業をおこなっています。
脇田:出前授業は、研究室のメンバーが「農業戦隊アグレンジャー」というキャラクターに扮し、楽しい授業をめざしました。「世田谷区の畑でつくられている野菜は?」「なぜ身近な場所でつくられた野菜を食べるのがいいの?」といった、野菜に関するクイズを出題するなど、子どもたちに興味をもってもらう工夫をしました。
稲泉:ほかにも、世田谷区が主催している区の農業をPRする「アグリフェスティバル」にブースを出したり、東京農大の「食と農」の博物館で親子参加型のお米のワークショップを開催したりするなど、実践的な学びを重視しています。
自らの体験がきっかけとなり、研究テーマを追究
稲泉:このような学びを通して、各自それぞれが研究テーマを見つけるわけですが、脇田さんが選んだテーマは「農業の教育的効果」。脇田さんが、食農教育を考えるきっかけとなったのも、農業体験でしたね。
脇田:その通りです。2年次の実地研修で初めて農業を体験しましたが、それをきっかけに、自分自身でも驚くほど、食と農に関する意識が変化しました。
実は当時、「人生のうちに1回ぐらいは、農業を経験するのもいいかもしれない」と、特に期待もせずに研修に参加していたのです。
ですが、研修の第一印象は、「農業って、意外に楽しい」。しかも、2週間の研修が終わった後、自分自身が生まれ変わったような新鮮な気持ちになりました。新しいものを得た実感とでもいうのでしょうか。このときから、徐々に「食農教育」について興味をもつようになりました。
「楽しい経験」が興味を広げ、発見につながる
稲泉:研究を進めるには、脇田さんのように、まずは自らが楽しんで日本の食と農への興味を広げることが大切です。同時に、実践的な経験を積む必要もあります。
脇田:本当にその通りです。興味をもって食育イベントに参加していたからこそ、今の研究テーマに出会えたのだと思います。
稲泉:「1回ぐらい農業をやってもいいか」と思っていた脇田さんが、たった2週間の農業体験がきっかけとなり、食農教育を研究したいと考えるようになった。これも、食農の教育的効果のひとつです。研究していくと、ほかにもさまざまな発見があるでしょう。
小学生と一緒に水田でどろ遊びをして、高校生、社会人と食農を学び、農山村で農家の人のお手伝いをする……。農業は、コミュニケーションの大切さ、田舎暮らしの面白さなど、さまざまな気づきを与えてくれます。その体験ができる場は惜しみなく提供していきます。