培養中における酸素濃度が胎盤細胞の細胞老化現象を調節する
2018年4月11日
動物生殖学研究室の妹尾琴実(修士課程学生)、谷川奈央(修士課程学生)と白砂孔明准教授らの研究グループは、培養時の酸素濃度がヒト胎盤細胞の細胞老化現象を調節する機構を明らかにしました。本研究は、米国生殖免疫学会誌『American Journal of Reproductive Immunology』に掲載されます。
胎盤は母体と胎児の大切なコミュニケーションツールであり、妊娠の成立と維持に関わる重要な器官です。私たちは酸素濃度が約21%の大気中で暮らしていますが、体の中の酸素濃度はそれよりも低いことが分かっています。例えば、正常な胎盤内の酸素濃度は3-8%です。一方で、妊娠中に異常が発生すると胎盤内は極度の低酸素環境(1-2%)となります。これまで、胎盤細胞培養実験の多くは21%酸素濃度下で行われてきましたが、これは胎盤細胞にとって過剰な高酸素環境であると考えられます。今回の研究では、胎盤のより詳細な生理機能解明を目指して、培養中の酸素濃度がヒト胎盤細胞に与える影響を検討しました。
その結果、生理的な酸素濃度(5%)と比べ、21%酸素濃度ではヒト胎盤細胞の細胞老化が誘導され、炎症性サイトカインを多く分泌することがわかりました。
この要因として、高酸素ストレスによる細胞の老化し、炎症性サイトカイン産生を促進する転写因子などの働きが活性化されることが原因であることが明らかになりました。さらに、これらの細胞老化や炎症性サイトカイン産生は、細胞内の老廃物を除去する仕組みであるオートファジーを介して行われていることが示唆されました。一方で、1%酸素濃度という極度の低酸素環境では、細胞の傷害が引き起こされることがわかりました。
以上から、胎盤細胞は培養中の酸素濃度に従って細胞生理現象が変化することが分かりましたので、今後は目的に沿った適切な酸素環境下で研究を進めることで、より詳細な妊娠や胎盤機能の解明に繋がることが期待されます。
論文情報:
Kotomi Seno, Nao Tanikawa, Hironori Takahashi, Akihide Ohkuchi, Hirotada Suzuki, Shigeki Matsubara, Hisataka Iwata, Takehito Kuwayama, Koumei Shirasuna
Oxygen concentration modulates cellular senescence and autophagy in human trophoblast cells.