東京農業大学

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動物の特性と生命現象の探求

肥満環境が卵子内ミトコンドリアに悪影響を及ぼす仕組みを解明

2018年4月11日

動物生殖学研究室の伊丹暢彦博士課程学生(特別研究員DC1)と岩田尚孝教授らのチームは、高脂質環境が卵子のミトコンドリアに悪影響を及ぼすメカニズムを明らかにし、さらに機能が低下したミトコンドリアの回復方法を見出しました。本研究は米国繁殖生物学会誌『Biology of Reproduction』に掲載されます。

ミトコンドリアは卵子の減数分裂や受精後の胚発生に必要なエネルギーを供給する細胞小器官であり、卵子内のミトコンドリアの数や質を維持することは女性が妊孕性を保つ上で重要です。しかし肥満女性では卵子の受精・胚発生能力が低く、これは卵子内のミトコンドリア機能が低下していることが一因と考えられています。しかし肥満が卵子内ミトコンドリアに悪影響を及ぼす詳細な仕組みや、その回復手段について検証した例はありませんでした。

研究チームはミトコンドリアの機能を低下させ得る要因として、ミトコンドリアを構成しているタンパク質のアセチル化という現象に着目しました。また、体外で高脂質環境を再現するため、肥満女性の卵子周辺環境で増加するパルミチン酸という脂肪酸を用い、これをブタ卵子の体外培養液に添加することでミトコンドリアの評価を行いました。

その結果、パルミチン酸で処理された卵子内では予想通りミトコンドリアが高アセチル化状態になっており、これはミトコンドリアタンパク質の脱アセチル化を制御するSIRT3という酵素の減少が原因であることが明らかになりました。さらに詳細な解析を行うことで、パルミチン酸は卵子内にセラミドという脂質を過剰に蓄積させることでタンパク質の脱リン酸化を行う因子(PP2A)を活性化させ、これがSIRT3発現を制御しているAMPKという酵素を不活化していることがわかりました。そこで研究チームはこのAMPKをターゲットとし、AMPKの活性化剤であるAICARにて卵子を処理することで、パルミチン酸によるミトコンドリア機能の低下を防ぐことができました。

この成果は、肥満による妊孕性低下への対処方法を考える上で役立つことが期待されます。

論文情報:
Nobuhiko Itami, Koumei Shirasuna, Takehito Kuwayama, Hisataka Iwata
Palmitic acid induces ceramide accumulation, mitochondrial protein hyper-acetylation and mitochondrial dysfunction in porcine oocytes

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