東京農業大学

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動物の特性と生命現象の探求

和牛

和牛は日本の肉専用牛で、黒毛和種、褐毛和種(熊本系、高知系)、日本短角種、無角和種の4品種を含む。和牛全体の95%以上は肉質(特に、霜降り)が特徴的な黒毛和種である。黒毛和種は、日本在来の牛をもとに役肉乳兼用牛を目指して外来種が交配され、その後在来牛の長所と雑種の長所を保持する役肉用牛として改良された背景を持ち、さらに、肉用牛と呼ばれるようになり、肉質や産肉量が重要とされるようになった。
牛は精液の凍結保存技術が確立されていて、交配のほとんどが人工授精である。枝肉形質に様々な特徴を示す種雄牛が活躍し、これら種雄牛や血統の特徴を考慮して改良が進められている。様々な種雄牛や血統のなかで霜降りに特徴的なものが存在し、種雄牛を中心に改良が進められていることから、黒毛和種で特徴的な霜降りも遺伝的要因が関係していることが窺える。

霜降り

「霜降り」は、骨格筋の筋束を覆う筋周膜上や筋束内に脂肪組織が形成されたものであり、筋肉内脂肪である。牛の筋束は、筋線維が集まって内筋周膜に束ねられた筋小束が集合し、外筋周膜で束ねられたものである。内筋周膜や筋線維周囲にまで脂肪が沈着すると細かい霜降りとなる。この霜降り形成のメカニズムについては不明なことが多い。
牛枝肉の霜降り度合いは、脂肪交雑基準(Beef Marbling Standard:BMS)のNo.1~12で評価される。このような家畜や家禽の肉、乳や卵に関する形質は量的形質、それに関わる遺伝子領域は量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Locus:QTL)と呼ばれる。これら量的形質に関わる遺伝子を明らかにするために、QTLを特定する解析が行われている。黒毛和種もその例外ではない。

脂肪交雑QTL

我々は黒毛和種集団において霜降り形成に関わる遺伝子を特定するために、特定種雄牛(種雄牛A)の去勢牛肥育産子を収集し、BMS値を表現型として連鎖解析を行った。その結果、脂肪交雑QTLをウシ常染色体7番(BTA7)上のセントロメア側付近で検出した。このことは、種雄牛AはこのQTLを、脂肪交雑増加効果を示すQと効果を示さないqをヘテロで保有していることを意味している。そこで、このQが種雄牛Aの父と母のどちらに由来するのかを調べたところ、Qは母に由来することがわかった。次に、この母の子である別の種雄牛(種雄牛B)の去勢牛肥育産子を収集し、BMS値を表現型として連鎖解析を行ったところ、BTA7の脂肪交雑QTLを検出することはできず、種雄牛BでこのQTLは脂肪交雑に効果を示さないことが分かった。そこで、種雄牛Bの母由来BTA7の型を調べたところ、検出した脂肪交雑QTLの領域内で組換えを起こし、テロメア側はQ型であったが、セントロメア側はQ型ではないことが分かった。しかも、種雄牛Bのこの脂肪交雑QTLは効果を示さないことから、種雄牛Bの母由来BTA7がQ型を示した領域には脂肪交雑遺伝子は存在しないと考えられ、BTA7の脂肪交雑QTLは、種雄牛BがQ型を示した部分を除いた領域に狭めることができると考えた(図1)。このQTL領域をMarbling-2と呼んでいる。

このMarbling-2の効果は、種雄牛Aの孫世代でも確認できている。さらに、Marbling-2解析から派生したサンプルで、Marbling-2以外の脂肪交雑QTLの効果も検出している。近年、分子生物学が進展し、次世代シーケンサーが開発されるなど、様々な網羅的解析が可能となっている。また、ウシにおいてもゲノムや遺伝子情報が充実してきている。これらを駆使して、霜降り形成に関わる遺伝子の特定を目指し、その成果が霜降り形成メカニズムの解明、また、畜産業のさらなる発展に繋がることを期待して研究を進めている。

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(図1) Marbling-2型の比較

動物科学科 動物生理学研究室
教授 平野 貴

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